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鍛冶師の仮面を被った魔王  作者: 苗村つめは
第一章
17/40

16.今度こそ、鍛冶師のお仕事 ぱーと1

 ◆◆◆◆◆


「で、マスターは何を作ってるの?」


 レインとアンナの距離が大きく縮まり、端的に言えば仲直りしたあと。


 アンナはレインに近寄ってそう問いかけた。

 疑問に思うのはまあ当然だ。


 しかし、今更感があるのはいとめない。


「服だよ。約束しただろ?」

「え、でも、家が出来たらって……」

「まあそうなんだけど。他に約束ごとも多いし、先にやっとこうかなって思ってさ。家は親父が作ってくれるから、時間は十分にある」


 本当の理由ではないが、アンナのご機嫌取りの側面は無くなったので、今はこれが理由で良いだろう。


 レインの言葉にアンナは嬉しそうに顔を綻ばせる。


「ありがとう……」

「さっきから、そればっかりだな」


 レインはふっと口元を緩め、アンナの頭を撫でる。

 すっかり癖になっている気がするが、それはきっとレインもアンナに心を許している証拠だろう。


 アンナも嫌がる素振りも見せずにレインの手を受け入れ、目を細めている。


 だが、いつまでもそうしている訳にもいかない。

 レインはアンナの頭から手を離し、一度置いた針を手に取った。


「あ……」


 名残惜しい。

 アンナの口から思わず小さく声がもれる。

 それを自覚し、急いで口元を隠すがもう遅い。


 レインはニヤッと笑い、深い闇色の瞳でアンナを覗き込む。


「もっと撫でてほしかったのか?ん?」

「ぅ……そんなんじゃないよ……」


 からかい口調のレインに、アンナは赤面して首を振る。

 しかし、レインのニヤニヤは止まらない。


「もう……マスターのいじわる」


 結果、アンナは顔を背けてしまった。

 言葉はさっきと一緒。

 しかし、そこに怒りは見られない。


 ただ恥ずかしいだけのようだ。


 それを見たレインは、「悪い悪い」と笑いながら謝罪し、作業に戻った。


 アンナもふるふると首を振って意識を切り替え、レインの横から作業を覗き込む。


「………」

「………」


 落ち着かない。

 別に人に見られていてもレインの集中が途切れることはないが、女性に見られていると無理だ。


 ヒューマンアレルギーは未だ健在である。

 いや、嘘だ。


 レインの集中が乱されるのは、きっとアンナだから。

 何度も言うがレインはロリコンではない。


 しかし、互いにちょっとした喧嘩を通して心を許しあったアンナは別だ。

 それもたった今さっき。


 どうしても意識してしまう。


 レインはアンナの視線に耐えきれず、ジト目を向けた。


「……見てて楽しいか?」

「?うん」

「………そうか」


 どうやら、離れてくれる気は無いらしい。


 そんなこんなで落ち着かないレインの服作りは、しかしモチベーションは保たれ、午前中に終わらせることができた。



「よし、完成!」

「……すごい」


 出来上がったのは、空色に白のラインが入ったカーディガンのような服。

 胸元をボタン代わりの小さな蒼色のアクセサリーで留めている。


 シャツは大きな襟が目立つ。

 風通しのいい素材で作られているが、一定以上は温度が下がらないという異世界仕様だ。


 そして、白で統一された大きなリボンと、裾が膝より少し上ぐらいのスカートに、フリルがあしらわれたソックス。


「これ……私に?」

「注文通り、『青と白ベース』で『シンプル』で『大人っぽい』ものだが……気に入ったか?」

「うん!ありがとう!」

 レインの問いかけにアンナは大きく頷く。

 そして、待ちきれないといったように服を胸元に抱き寄せ、


「あの……これに着替えてきていい?」

「勿論」


 アンナは嬉しそうに脱衣所に向かい、困ったように立ち止まった。


「どうした?」

「服……その、着たばっかりだし……」

「あ、いいよ。脱いだら籠じゃなくて、そのまま持って来てくれれば」


 同じ間違いは犯さない。

 レインはアンナの言いたいことを察し、すぐさま指示を出した。


「分かった」


 アンナは頷くと、今度こそ脱衣所に入っていった。


 それを見届け、レインはしみじみと呟く。


「……なんか、凄い喜びようだったな。…………ま、いいけど」


 フッと笑みを浮かべ、レインは散らばった糸くずを捨て、裁縫道具は棚に、余った布地は元の場所に戻す。


「さって、まだ半日残ってるし……親父に言われてた仕事の方を片付けるかな。………いい加減アンナの勘違いも解きたいし」


 親父に言いつけられた仕事とは、魔獣戦で力不足を思い知った、レインとアンナの特訓用の武器を作ることである。

 今度こそ鍛冶師の本領発揮だ。


 アンナには、いつまでも「家事師」だと思われ続け、もはや訂正するのも億劫になってきた。


「見せてやんよ、『世界最高』の名が伊達じゃねえってところをな……!」


 レインは手をわきわきさせながら、不気味に笑う。

「ニート」だの「ろくでなし」だの「次長老(笑)」だの、散々言われてきたが、今日で汚名返上だ。


「……ははは、ふははは!」

「どうしたの、マスター……」

「ふアっ!?」


 驚愕。

 思わず変な声を上げてレインは飛び跳ねてしまった。

 いつの間に着替え終わったアンナがレインにジト目を向けて立っていたのだ。


「い、いや?何でもないよ?」

「十分何でもあると思うけど……」

「気にすんな。お年頃なんだほっとけおーけー?よし」

(疲れてるのかなぁ?)


 アンナはレインのハイテンションに訝しげな顔をして首を傾げる。

 確か前にこんなことがあった気がするが、一気に疲れた表情になっていたから、きっと今回も疲労が原因なのだろうと結論づける。


 レインはこめかみを揉み、目頭を押さえて気を取り直す。


「ん、んんっ。まあ、なんだ。似合ってるぞ、ソレ」


 我ながら完璧と自画自賛したくなる程の見立て。

 ボロボロの格好をしていてもアンナは可愛らしい少女だったが、今はそんなものではない。


 衣装がアンナの整った容姿を引き立て、さながら天使かなにか。


 美の女神とは言いづらい年齢だが、数年経てばそれも目ではない。


 語彙力に乏しいレインは、目で「どう?似合ってる?」と訴えるアンナに、陳腐な言葉を返してしまった。

 まあ、たとえ語彙力があろうと、今のアンナの愛らしさは筆舌にし難いが。


 しかしアンナは、そんなレインの言葉に頬を染め、目を泳がせた。

 恥じらっているのだろうか。


「あ、ありがとう……うれしい」


 小さく呟かれた感謝と、アンナの気持ち。


 それはしっかりとレインに届き、何だかレインも恥ずかしくなった。

 レインは頰をかき、軽口でそれを誤魔化す。


「喜んでくれて何より。職人冥利に尽きるってもんだ……って言っても、俺は服作りが専門な訳じゃないけどな!」

「え、あれ?マスターは家事師じゃないの?」


 ハイでました、アンナの解けない勘違い。

 何度言っても無駄だったが、今回こそはとレインは息巻く。


「それは字が違う。俺が言ってるのは、鉄をえる職人のことなんだよ!『鍛』えるに、『事』に、師匠の『師』」


 一音一音はっきりとアンナに言い聞かせる。

 何が悲しくて家庭的なスキルばかり極めた職人にならねばならないのか。


 まあ、どうせ分かってくれないんだろうなと思いながらもレインはちょっぴり期待。

 アンナの反応を待つ。


 アンナはレインの言を脳内で再生、塾考し、ピコーン!と理解した。


「ああ、そっちの鍛冶師だったの。ならそう言ってくれないと」

「何でこんなに偉そうなんだコイツ……」


 やれやれとばかりに首を振るアンナに、レインはジト目を向けるが、当の少女はそんなことは知らないと、スカートをひらひらさせている。

 完全にマイペースを取り戻したようだ、この問題児。


「もういいや、張り合ってて悲しくなってきた。………アンナ、ちょっと出かけるぞ」


 いちいち構っていると面倒なので、レインはさっさと本題を切り出す。

 色々あって忘れがちだが、カルラの冬は、0度以下が平均。


 極寒の地だ。


 レインは防寒着を着用していく。


「私は?外、行くの?と言うか、どこに行くの?」

「俺の本職の方だ」

「鍛冶師の?」

「そ。カルラの鍛冶工房。此処では唯一の石造建築だ。……興味あるか?」


 疑問符が尽きないアンナに問いかける。

 アンナはレインのその言葉に、こくんと頷いた。


「だって、私は『鍛冶師』の弟子、なんでしょ?」

「やっと自覚したか……」


 悪戯っぽく微笑むアンナにレインは苦笑。

 いい感じに馴染んできたらしい。

 いいことだ。


 アンナにコートを投げ渡し、レインは慌ててコートをキャッチするアンナを尻目に、久し振りの鍛冶に思いを馳せる。


「じゃ、行きますか」

サブタイに「今度こそ」とかつけといて、結局なんも鍛冶とかしてない……。

ぱーと2!の方はしっかり仕事してくれる、かなと思います(レイン任せ)。


あと、アンナの服装が分かりにくいと思うので、画像載せます。

挿絵(By みてみん)


下手ですが、ご容赦を。


次回もよろしくお願いします!


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