6.エンカウント
「この川の水は飲んでも大丈夫なのか?」
「分かんない」
いやいや、分からないのによく飲めるな。
飲むか?それより飲めるのか?フェイは精霊だしフェイが大丈夫でも俺はダメとかいう場合もあるし……
「ぷはぁ、いきかえるぅ」
無理、我慢出来ないわこれ。
正直喉カラカラだし疲れたし飲むしかないわ。
「……別に普通だな」
不味い訳でもないし美味しい訳でもないな、
でも一応喉を潤すだけにしとこう。
後で腹痛とか嫌だからね。
「にしてもこの森、広すぎないか?一時間は歩いてるぞ?」
「広いね〜私初めて森の中に入ったからちょっと楽しい」
そうなんだ、精霊とかって森の中で佇んでそうだけど。
そんなイメージが……アニメの見過ぎだな。
「よし、今日はここで寝るぞ?やっと見つけた水源だしこれからはこの川を中心にしようと思うけど、フェイはどう思う?」
「私はゆーまについていくだけだから!寝る場所もゆーまの上で寝るから大丈夫!」
よし、それならここを中心にして水はここでいいとして。
あとは食料だよな……そういえばこの世界はファンタジー世界だったよな?
ひょっとすると魔物が……いる訳ないよね!そんな簡単に、ね!
「グルルルルルル‼︎」
茂みの奥から低く唸る声がした。
もしかしなくても魔物だよね?グルルって鳴く人とかいないもんね。
フラグ回収かよ。
「ま、ま、魔物!」
「フェイ、今にも飛び出して来そうなんだけど……精霊の力でやっつけたり」
「無理!」
デスヨネー。
茂みから顔を出したのは狼の様な姿をした魔物だった。
「無理無理無理!すげぇ睨んでくるんだけど!怖い怖い!フェイさん退治してください!」
「無理無理!ゆーまが倒してよ!せっかく凄い量の魔力持ってるんだからちゃちゃっとやっつけちゃってよ!」
やばいよやばいよ、今にも襲いかかって来そうな勢いなんだけどぉ⁉︎
こ、ここは撤退だ。
逃げるしか道は無い!
「フェイ……逃げるぞ」
「了解!」
俺は魔物に背を向け全速力で走る。
お願いしますお願いします、どうか追ってこないで。
あれ?音聞こえないな、追ってきてない?
よっしゃ!このまま逃げるぞ!
「「グルルルルルルァァァ!」」
後ろを振り返ってみると……2体に増えていた。
マジかよ、難易度高くね?
「フェイ!明らかにあっちの方が速いんだけど!追いつかれるの時間の問題なんだけどどうしたらいい?」
「た、倒すしかないじゃない!」
「そんな無責任な!」
心当たりがあるといえば、魔法だよな。
火のイメージ、火のイメージ!
俺は立ち止まって振り返り、凄いスピードで追ってくる魔物に手を向ける。
イメージ、イメージ、イメージ!
「スンッ」
へ?なんか残りカスみたいなのしか出なかったんだけど。
しかも目の前にいるじゃん、これは終わったか?
俺は立ち止まってから動けずにいた、魔法が出なかったショックも大きいが何よりも怖かった。
足が竦んで逃げられなかった。
「クソッ、動けよ」
「「グルルルァァァァ‼︎」
眼前には2匹の魔物がヨダレを垂らし鋭く尖った牙をガチガチといわせながら迫っていた。
「だめぇぇぇぇぇ!」
フェイの叫び声が聞こえてきた。
瞬間、魔物の牙が突き刺さる直前にフェイが俺の身体に突撃した。
「…………」
「「キャウゥン!」」
目の前で2匹の魔物が弱々しい鳴き声を上げながら炎に包まれていた。
え?何があった?ギリギリで魔法が発動したのか?
「助かった……のか?」
痛みも感じないし助かったみたいだな。
そういえばフェイがなんか言ってた様な……あれ?何言ってたっけ?
「ん?妙に明るいな、さっきまで目を凝らしてギリギリ見えるくらいだったのに」
まるで火を炊いている様な。
さっきまで転げ回っていた魔物はいつの間にか動かなくなっていた。
魔物を包んでいた炎もかすかな残り火になっている。
おかしい、こんな小さな残り火で周囲がこんなに明るくなる訳がない。
残り火といっても小さなロウソクの火ぐらいしかならない筈だ。
「ん?フェイがいないな、フェイー!おーい!ってあれ!俺燃えてる⁉︎」
腕が燃えていた……というよりも炎になっていると言った方が正しいか?
熱くは無いし、周囲が明るいのはこのせいか。
「うわっ、足まで?いや……体全体が?」
どうやら人型の炎になっているらしい。
どうしてこんな姿に?お陰で魔物を退治出来たんだけど。
「わっ!」
急に辺りが暗くなり、俺の身体を纏っていた炎が消えた。
そして目の前にフェイが姿を現した。
「フェイどこいってたんだよ、探したんだぞ?」
「ふぅ、やっと出られた」
出られたって……どこから?