2.火の精霊
異世界に転生されてから2年と少しが経ち、
俺はこの世界で3歳になろうとしていた。
「今考えれば結構あっという間だな」
俺は自分の部屋でそう呟いた。
なんでも、父さんは王都でエリート騎士として名が知られており母さんも王都で名の知れたヒーラーだそうだ。
俺が2歳になった頃に父さんがそろそろクルーシュも自分の部屋が欲しいだろ?と聞いてきて笑顔で誤魔化したら2歳にして俺の部屋が出来たのだった。
「あ〜魔法とか使いたーい」
ついこの間父さんに連れられて外に出かけた時にちょっとだけ見せてもらったのだ。
あれは確かフレアっていう火属性魔法だっけ?
その時赤くてちっちゃいのが飛んでたけどアレなんだったんだろ……
ともかくアニメ好きの俺としては魔法は使ってみたい。すっごく。
今は父さんも母さんも仕事で出かけているので家には俺だけだ。
ついこの間俺の妹が……思い出しただけで腹立ってきたしちくしょう。
そんな訳でセキュリティ面を母さんに尋ねてみた所、この家には防護魔法?とやらが掛けられているらしく絶対大丈夫らしい。
俺が知ってる異世界転生なら父さんか母さんの書斎に無断で入って魔法を覚えたら強かった的なのが多いけど俺は違う。
非常に残念な事にこの家に書斎は無い。
父さんと母さんは本などを読んで覚えるのは苦手らしく実践か人に教わるそうだ。
いわゆる天才肌というやつか……
だからとても暇、アニメも無い漫画も無い俺の興味を引くものすら無い。
どういうことだよ……せめて父さんと母さんが仕事の間の話し相手だけでも欲しい。
「コツコツ」
「ん?なんだ?」
不意にコツコツと音がした。
なになに?どこ?怖いんだけど。
「コツコツ」
耳を澄ませて聞いてみるとどうやら窓を叩く音のようだ。
え……誰?ここ2階なんですけど……
「コツコツ!」
若干、窓を叩く音が強くなった。
俺は恐る恐る窓から外を見る。
そこには地球変わらぬ真っ青な空が広がっていた。
「なんだ、空耳か」
「バンバン!」
俺は驚きのあまり尻もちをついてしまった。
怖い怖い!なんだよ!誰だよ!
「誰だよ!」
多少の苛立ちに勢いよく窓を開ける。
すると手のひらサイズの赤い何かが俺の部屋に勢いよく入ってきた。
「虫?」
「虫じゃなーい!酷くないですか?初対面の
レディに対して虫って酷くない?」
と、とりあえず虫じゃないようだ、そしてレディなんだ——えっ……喋った?
「誰だよ」
「私は精霊だよ、ほら赤いでしょ?」
「知らんわ!」
なに?精霊は全員赤いのが常識なの?普通精霊といったら羽生えててちっちゃくて女の子で……ん?よく見たら羽あるね、小さいしさっきレディって言ってたね。
「精霊さんが俺に何の用だよ」
「今こうしているからよ」
「へ?」
今こうしているから?俺がなにしましたか?
もしかして知らないところで怒らせて俺を殺しに来たとか……まさか。
「ほら、私の事見えてるでしょ?普通人間には見えないんだけど強い魔力を持つ人間は稀に私達精霊を見て会話することができるの」
「見えたらどうなんだ?」
「べ、べつになにも……それよりも気になってたけどあなた驚かないのね」
「へ?驚いてるよ?」
そりゃあ急に窓から喋る人外が来たら驚きますとも、これで驚かない人とかいないでしょ?
まぁ、俺の事を殺そうとかそういう訳では無いようなのでいいけどさ。
「言っとくけどね?私はここら辺で崇められてる精霊なのよ?そういう意味で驚かないの?」
「いや俺3歳……まだ2歳か、とりあえず俺はまだ何も知らないからな。そんな事期待されても無理だわ」
「2歳⁉︎」
え?2歳にそんなに驚く?ただ普通に喋って……あっ、父さんとか母さんじゃないから油断してた。
ちなみに父さんや母さんの前ではとーたんとかかーたんとかしか喋ってない。
「人間にしては知性を持つのが早すぎる、
会話も出来てるし私の事も見えてるし……
あなた人間?」
「おーい、人外に聞かれたく無いよそれ。
俺は100パーセント人間、人と人との間に産まれた俺は人間。分かる?」
「この際どうでもいいわそんな事……よし、決めた。私あなたと精霊契約する!」
「は?精霊契約?」
精霊契約?文字通り精霊と契約するんだろうけど、なんで?理由が分からないこの精霊さんからすれば人間で2歳のくせにペラペラ喋るきみの悪い子供じゃね?
「そう!決めたからさっさとやっちゃお!今すぐに!」
「なんでそんなに急いでんの?まず俺はやりたいと一言も言ってないしなんでそんなに焦って——なにか隠してるだろ」
「ひえっ?……ひゅーひゅーひゅー」
いや、それ肯定しちゃってますから。
はぁ、何隠してんだよ。別に精霊契約とかしてみたいけどなんか不安なんだよな。
「だって他のみんなは精霊契約してて大精霊様から認められてるのに私だけ見つからなくって」
「なんで?精霊がいたら契約したいんじゃないの?この辺りで崇められてるんじゃ?」
「だって……私見ての通り火の精霊だもん」
「いいじゃないか」
「へ?」
火の精霊とかテンプレじゃないか?なんでそんなに落ち込む必要があるんだ?
よくわからんな。
「火の精霊だよ?一番弱いんだよ?それでもいいって思うの?」
「そうだな、隠してるのがその程度の事なら俺は進んで精霊契約させてもらうけど?」
「やった!絶対断られるって思ってた!これでみんなを見返せる!」
「じゃあよろしく」
「うん!」
そう言って火の精霊は満面の笑みで答えた。