1.未知の世界へ転生
「死んだのか……」
もう何も考えたくない。今でも妹の光を失った目を、腹部から流れる大量の血が頭の中を駆け巡る。
俺は何も出来なかったんだ……おれがもう少し早く帰っていれば優香は辛い思いをしなくて済んだかもしれない。
俺が強かったらあの男を倒しすぐに救急車を呼べば助かったかもしれない。
俺が…………俺が……俺が。
「随分と辛い思いをしたようだね」
「誰……誰だ」
「誰だとは失礼だね。僕のお陰でまだ死んでいないのに」
「死んで……いない?」
そんな筈は無い。何度も何度もナイフが俺の身体を裂き大量の血が飛び出すのを俺は見た。
死なないはずが無い。絶対に。
「自己紹介から始めようか、僕は死と生を司る神様、オシリス。君の名前は?」
「俺は、悠真……東条悠真」
「悠真君か、災難だったね」
災難……あれは災難だったねなんて言葉で済ましていいのか?
まぁ、他人から見ればそんなもんでしか無いか。
「で?その神様が俺に何の用だ」
「口が悪いのは……まぁいい。君には新しい世界での人生をプレゼントしよう!」
「あ?」
何を言ってるんだこいつは、頭がおかしいんじゃ無いか?
疲れた……どうでもいいや。どうせ何をやっても優香は返ってこないんだし。
「そうだな……君をやる気にさせてあげよう!もしも今から行く世界で私の望む事をしてくれたら優香ちゃんを助ける権利を与えよう!」
「優香を……助ける?助かるはず無いだろ。
優香は死んだんだ」
「僕は神だ、それくらいの事は出来るさ!
後は君次第だ、このまま記憶が無くなり存在ごと消滅し新しい器を入れられたいかい?
それとも、僕の願いを聞き届け新しい世界で目的を達成し優香ちゃんを助けたいかい?」
「そんな事……出来るわけ」
そうだ、これは夢だ。俺が優香に何もしてやれなかったからこんな夢を見てるんだ。
あまりに都合が良すぎる。
「じゃあいいのかい?このまま消滅で……
一言だけ言わせて貰うとね?」
「なんだよ」
「君が死んだ後君の両親も死ぬ事になるよ?
ま、それは君が死を受け入れ魂ごと消滅を望んだ時だけだけどね」
そんな……母さんに父さんまで?そんなことって。
もしもこの話が本当なら……いや、俺がそうであって欲しいだけだな。
もしも本当なら……
「頼む、俺にチャンスを」
「正直でいいね、君の願い聞き届けよう。
君が今から行く世界は君の知っている世界だよ」
「なんの世界で何をすればいい」
「剣と魔法の世界だ。その世界で君が世界を一つにするんだ。成功したらちゃんと優香ちゃんも両親も助けられる」
あぁ、いわゆるファンタジー世界か。
「一つに?それってどういう」
「じゃあねー!いってらっしゃーい!」
俺はだんだんとすり減っていく意識の中で、
優香——絶対助けるからな。
◆◆◆◆
ここは——どこだ。
目を開き辺りを見渡してみるが視界がぼやけてハッキリと見ることが出来ない。
手も足の感触もあるが動かしにくい。
何が起こったんだ?とりあえず誰か呼んで。
「あーぶ」
えっ?——今のって。
「はーい、なんでちゅかぁ?」
へっ⁉︎何?誰?誰かの声がした!女の人の声だったな。
なんか妙に安心する声だったな。なんだろうこの感じ——思い出した、母さんだ。
子供の時一緒に寝てた時のあの包み込まれる感じだ。
やべ、泣きそう。
「あら泣いているの?よしよし、良い子良い子ね〜」
俺は抱き上げられ声の主の胸の中、穏やかな気持ちでいっぱいになった。
5分ほど経っただろうか?俺は地面が柔らかい所に降ろされた。
まさかとは思うけど……俺赤ちゃん?
大分マシになった視界で自分を見てみると、
明らかに小さ過ぎる手と短い足。
おい——転生するとか聞いてないぞ。
「だぁー」
思う様に声も出ないし視界も狭くボヤけている。手足も動きはするがゆっくりとしか動かない。
ダメだこりゃ。
俺は諦めてそっと目を閉じ眠りについた。
◆◆◆◆
ん……寝てたか。
早く優香を助けないとな……世界を一つに、あれはどういう意味だったんだろう。
一つにする、分からないな。
「…………」
何もする事ないな、それもそうだよな。
はっきりとした自我がないからこんな暇な時間を苦に思わないだけで俺は自我あるからねはっきりと。
「あなた、早く早く!」
「おぉ!」
なんだ?声がするな——さっきの女の人と男の声?
あなたって言ってたな。
直後、俺の体が抱き上げられる。
そうだよな、俺赤ちゃんだもんな。
「クルーシュは可愛いな!目もパッチリしててこの目はノーティスに似たな!」
「ほら見て、口元はあなたに似てるわよロウネス」
なに?俺の名前はクルーシュなの?勘弁してくれ。
んでもってこの人達は誰なんだ?予想はついてるけど。
「これで俺が父親でノーティスが母親だな!」
「そうね!嬉しいわ!」
はい、予想通りですね。分かってましたともマジで、本当に……