3「今日からお前の名前はアダムだ」
「さあ、やってまいりました第一回描写力コンテスト!」
前回の俺の挨拶が途中で切られたんだが。
「いいじゃないですか。丁度2000文字ですから」
良くねえよ。最後まできちんと挨拶させろ!!
「まあまあ続きをやりましょう」
はあ、まあいいだろう。
「さて、今回は貴方が創造した人間に名前を付けましょう」
名前?
「はい、物語の登場人物には必ずといっていいほど名前が必要ですよね」
まあ、そうだが。
「なので貴方が神として、想像した人間に名前を与えましょう」
出来るのか。
「いつもどおりで念じれば出来ます」
分かった。やってみる。
私は何をしていいか分からないまま、ただひたすらバランスボールを蹴り続けていた。
そんなことしても意味がないことは分かる。だが、それしかやることがないのだ。
この密室で何の手がかりもないまま閉じ込められ、過去の記憶すらない。
私は一体、ここで何をすればいいんだろう。
そんな時、ふと声が聞こえた。
「今日からお前の名前はアダムだ」
「おおっとアダム選手! 小説の作法でやってはいけないことをしてしまった」
何がいけないんだ?
「同じ名前の登場人物が二人いれば、読者はどっちなのか混乱してしまう」
まあ、大丈夫だろう。
「読者の混乱を避けるためにも今すぐ名前を変える必要があるでしょう」
めんどくせえな。いいだろう。俺が好きに付けたんだから。
「私がこの場を借りて読者の皆様にお詫びします」
さっきから読者読者ってうるせえな。どんな書き方をするのも書く側の自由だろ。
「読者からの文句が痛いほど私に伝わってきます」
それより先へ進めたいんだが。
「アダム選手。小説の作法はお構いなしに次へと進んでいく」
あっ、面白いこと思いついた。
私の名前がアダム?
その声の主はそう私に言ってきた。
名前だけだが、一つの手がかりを手に入れることが出来た。
そうか。私の名前はアダムか。
我ながらいい名前だと思う。
「ん?」
何か胸騒ぎがした。
何かは分からない。下の階で何かが起こっているような気がしたのだ。
私はその胸騒ぎの元の下の階へ階段を下りていった。
下の階の辺りを見渡してみる。
「あ!?」
真っ白だった壁に何か絵が書かれている。
うさぎだろうか?
それらしき絵が書かれていて、そのうさぎの右上に「FUCK YOU」という文字が丸い線の中に書かれていて、そこから矢印がうさぎの方へ伸びていたのだ。
「あの……。アダムさん」
何かね。
「私を弄るのやめてもらえませんかね」
悪いか? いい描写だと思うんだが。
「描写以前の問題な気がします……」
さて、次はどうしようかなあ。
「ここまで書いて1000文字程度。残り1000文字残っております」
ってか一話2000文字じゃないとダメ?
「ダメです。それにそれだけじゃありません。この小説の目標は10万文字以上です」
10万文字も書かんといけんのか?
「書籍化を狙うならここまで書くしかないでしょう」
だが、書籍化の中には15000文字程度のものもあった気がするが。
「それは例外というものです。文字数は少ないかもしれませんがその分、内容が濃かったのです」
ってか思うんだけど1作品10万文字は難しいが、1話2000文字って簡単じゃね?
「どうしてそう思うんですか?」
だって、書いてる場面を敷き詰めればいいんだろ? 簡単じゃん。
「確かにその通りですが……」
さて、次へ進むか。
現在、アダムという人物は下の階にいる。なので、今度は上の階に青色のクレヨンを用意してみた。
さて、そのクレヨンでどんな行動をするのか?
高みの見物といこう。
また、胸騒ぎがする。今度は上の階からだ。
私は上の階へと上ってみた。
いつもどおりバランスボールがあるだけ、かと思いきや何やら青いものが置かれている。
これは何だろうか? これを食べれば何か起こるのだろうか?
私はその青いものを口にしてみた。
馬鹿かこいつは。
「馬鹿ですね。さすがはアダム様が作った人物」
おい!
「次へ進みましょう」
無視されたし。
「単にクレヨンを口にしたという描写だけでは面白くないでしょう」
どうすればいいんだ?
「クレヨンは普通、食べれるものではありません。なので食べてはいけないものを食べると罰が下る設定にしましょう」
例えばどんな?
「それは神である貴方の仕事です」
えええええええ!?
「私はあくまで描写力コンテストの司会であり、描写をする手伝いではありません」
オーケー、一応やってみるわ。
「ん?」
何だろう? お腹が痛い。気分が悪い。
「げぼおおおお」
私は思わず口に入れた青いものを吐き出してしまった。
どうだ? この描写は
「70点といったところでしょうか」
点数付けんなよ。
「悪くはありませんよ。当たり前の描写です」
もう一度あのクレヨンを置いてみるか。
「2000文字まで残り100文字を超えました」
ってか、これ2000文字でやる必要ある?
「描写力コンテストですので1話2000文字は必要です」
いや、そうじゃなくて。
「そろそろ、終わりの時間です」