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10「詩的で優雅な描写」

「さあやってまいりました第一回描写力コンテスト」


 お前いつもそこから始まるのな。


「何か問題がありますか?」


 いや、別にいいんだけどさ。

 最初の一言を100話分書いたら2400文字、一話分もあるぞ。


「良かったじゃないですか。それだけでそこまで稼げるなら!」


 まあ10万文字に貢献してくれるのは嬉しいけどな。

 読者としてはうっせえ! 早く進めろと思うかもしれんが。


「まあ最初の挨拶と2000文字丁度がこのコンテストのルールですので」


 ルールってのはなあ。破るためにあるんだよ。


「さて、前回の話を続けましょうか」

 

 無視かよ。まあいい。で、何だっけ?


「貴方の描写、短すぎる気がするんですよ」


 その話だったな。まあ確かに俺は描写はあっさりし過ぎてるとも言われる。

 でも前回の描写は別に酷くはないだろ。


「根拠を尋ねてもよろしいですか?」


 俺は前回の描写を一区切りにして終わらせただけで、別にあっさりしてるわけじゃねえだろ。

 それに文字数だけであっさりしてるかどうか判断するのなら、200文字小説とか全部あっさりしすぎてるって言えるんじゃね?


「確かにその通りなのかもしれませんが」


 俺の描写があっさりし過ぎてるのは認めてるんよ。

 ただ、前回の最後の描写に関しては特に問題ないと思うね。


「そうですか」


 さて、その一区切りにした前回の描写を続けてみるか。


「ちょっと待ってください」


 何だ?


「今、アダム視点で行こうとしたでしょ?」


 そうだが。


「イブ視点で行きましょう」


 どうして?


「折角、○○視点っていう描写が出来るのだから、それを使わないともったいないです」


 つまり、いろんな人に焦点を当てて見ろと。


「そういうことです」


 そうだ。面白いこと考えた。


「急にどうしたんですか?」


 アダムとイブ、二人の視点を書きたくなってみた。


「ふうむ」


 別に悪くはないだろ。


「それは構わないと思いますが、あまり多様しすぎると小説のテンポに問題が生じます」


 今回ぐらいいいじゃん。先っちょだけ。先っちょだけだから!


「そこまで言うのでしたら構いませんが」


 それじゃ、始めるぞ、まずアダムの視点から。





 ――アダム視点。


 朝。

 目が覚めた。


 丁度イブも目が覚めたらしい。

 しかし、相変わらず悲しい表情をしていた。


 でも、その表情とはもうお別れだ。


「イブ」

「何ですか?」

「外に出てご覧」

「なぜですか?」

「それは行ってからのお楽しみ」


 イブの喜ぶ表情が楽しみだ。





 ――イブ視点。


 悲しい。

 何で神様はこんな残酷なことをするのだろう。

 私から大事な猫を奪うなんて。


 私はひたすら泣き続けた。

 泣いても猫が返ってこないことは分かってる。


 でも泣かずにはいられないのだ。


 朝の青色の日差しの中。


「イブ」


 とアダムが私に話しかけてきた。


「何ですか?」

「外に出てご覧」


 外?


「なぜですか?」

「それは行ってからのお楽しみ」


 私はアダムの言われたとおり外へ出てみた。


 ……嘘でしょ! 信じられない!!

 私の目の前には、神様が奪ったはずの猫がいたのだから。





 どうよ。


「悪くは無いんじゃないでしょうか? 私が理解出来てるので多分、読者の皆様も理解してくれてるものと」


 何か言うことないか?


「特にないですが」


 分かってないなあ。イブ視点をよく読んでみろ。


「ん??」


 俺の繊細で優雅な描写が分からんか?


「どこでしょう? 説明をお願いします」


 ”朝の青色の日差しの中。”ここだよ! ここ!!


「それがどうかしましたか?」


 分かれよ。太陽の日差しの色は普通何色だ?


「まあ、黄色といったところでしょうか」


 それをイブは青色と判断した。それが何を意味するか分かるか?


「……何ですかね?」


 お前、本当にこのコンテストの司会者なのか?

 イブに太陽の日差しが”青”に見えたのは、イブの心が悲しみの色の”青”に囚われていたからなんだよ。

 俺はイブの悲しみを詩的に描写したの!


「なるほど!」


 やっと理解してくれたか俺の素晴らしい描写力を。


「別に素晴らしいとは思いませんが」


 何!?

 どこをどう見れば素晴らしくないと言えるんだよ!


「別にわざわざ青とか描写しなくてもイブが悲しんでることは知ってますし」


 …………。


「もしイブの悲しみの”青”を強調したいのでしたら、前半の悲しんでる描写とか省いたほうがいいんじゃないですか?」


 あれ? 司会者が神に口出しなんて出来ないんじゃなかったけ?


「急に強情になりましたね。私は私の感想を述べたまでで、まあ読者の皆様は良いと思ってるんじゃないでしょうか?」


 やばい。何がいい描写なのか分からなくなってきた。


「それより先に進みましょう。読者も私たちの無駄な会話よりストーリーを読みたいとお思いでしょうし」


 やばい。俺泣きそう。





 ――アダム視点。


 イブが猫を抱き抱えて戻ってきた。

 猫は私を見た瞬間。威嚇しだした。


「どうしたの? 猫ちゃん」


 猫が人間の言葉を話せなくて良かった。

 もし、イブがこの事実を知ったら、私は猫だけじゃなくイブにまで嫌われてしまう。


 イブの喜んでる表情も見れたし。

 私はもう満足だ。


 神様、

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