あたし、女の子なんだ……
「あっ、そういえばあんたの名前を聞いていなかった」
「あたし? あたしの名前は東条薫」
「あんたも名字もちか……平民は俺だけなのかなぁ」
「まっ、これだけ名字持ちがいて一人平民でここまでこれたのはすごいと思うよ」
「そう言われると、俺としても助かる」
まだまだ空席が目立っているものの、そろそろ夜と言ってもおかしくないほどに外の景色は暗くなっていく。
「……そろそろ終わりですね」
「それにしても本当にフューリーはよかったね、あたしの二番煎じでも入れて」
「ぐっ、さっきと違ってひどい言い草だな……まあ日曜の魔導方程式は難易度が高い傾向にあるっていうし、それで取ってもらえたのかな」
あ、まずい。七曜についてはまだそういうものがあるとしか聞いていないから、難しいとか分からないよ。
「……フューリーって日曜の魔法が得意なの?」
「俺か? 俺は本来なら火曜の魔導方程式を解くのが得意なんだ」
「というと?」
「なんつーかな、村暮らしだったからとにかく火が大事でよ、火を扱う魔導方程式を組み立てるのは日常茶飯事だったんだ。けど火曜の魔法とか七曜おいては簡単な方だろ? だから今回、必死こいて寝る間も惜しまず三か月かけて第五階層の【電気】を解いてきたんだけどよ……」
ごめんなさい。あたしはほんの数十秒で【雷光】覚えました。
今の所あたしはここまで日曜の魔導方程式しか解いていない。となるとやはりあたしって天才なのかも。
「……まあ、合格したってことは覚えておいてよかったってことじゃないの!」
「ああ、そうだな!」
案外この人立ち直りが早いな。流石は平民出身!?
「……どうやら試験は終了したようですね」
ルヴィがそう言った矢先に、周りで様子を見ているだけだった大人たち――恐らく教師陣なのだろう、その人たちが時計を見てはひそひそと話をしている。
「後五秒くらいかなー」
「……5、4――」
「3、2……」
1――
「――新入生の皆さま、ご注目ください」
それまであたしたちのようにざわついていた周りが、しんと静まり返る。
日も暮れて暗くなった部屋にはシャンデリアによる明かりがつけられ始め、改めて周囲の合格者の顔を照らしだす。
「皆さまはこの七曜魔導学院に合格した、選ばれしものであります。まずは自分に、そして時を同じくして合格した学び舎の友に称賛の拍手を」
最初はパチパチとまばらになっていた拍手は次第に大きくなり始め、そして改めてこの魔導の頂点ともいえる七曜魔導学院に入学したのだという実感がそれぞれに沸き始める。
「……これは夢ではないのですね」
「ルヴィ、そう思うんだったら自分のほっぺたをつねってみてよ」
あたしから言われるがままに、呆けた顔のルヴィは自分の頬をつねり、そして痛がると共にこれが現実なのだと実感した。
「良かった……本当に良かった……」
「おめでとう、ルヴィ」
「ありがとうございます、薫さん……思えばあの時、薫さんがいなかったら私はどうなっていたか――」
「気にすることないって! あたしこそあの場所にルヴィみたいな人がいなかったらこんなところに来られなかったんだから!」
あたしはそう言って、改めてうれし涙を流すルヴィを抱きしめる。
「合格おめでとう、ルヴィ」
「合格おめでとうございます、薫さん」
拍手が鳴りやむと、前に立っている司会の女性が学長へと挨拶の言葉を繋げる。
そして新入生の前で挨拶することとなった学長は、前のテーブルにて席を立ち、この学校に入ることの意義を伝え始める。
「諸君はもう既に分かっているだろう……この学校に入ることの、この学校の敷居をまたぐことの意味を、重さを!!」
……そんなに考えてないっす。
「この学校から優秀な軍人が生まれ、この学校から国家魔道師が生まれる!! いわば君たちこそが、このマギカという国の未来そのものなのだ!!」
何やら壮大な演説が始まっているが、あたしはそんなことに耳を傾けることより、早く魔導方程式を学びたいという気持ちだけが強まっていっている。
「――諸君には多大な期待をしている!! 以上だ!!」
またも盛大な拍手が送られ、その後も式は荘厳に執り行われる。
そして皆が静まり返って話を聞いている中、異世界に来てしまったことへの実感もまたあたしの中で強くなっていく。
「――あたし、女の子なんだ」
誰にも聞こえない呟きは、式を執り行う司会の大声によってかき消えていた。
ようやく次回からチートぶっぱ&サービスシーンブッ込めます。ということで少しだけアンケートという形ではありますが、そういったサービスシーンに主人公が巻き込まれるのはありなのか(例:主人公の方がパンチラを見せてしまう等)よければ感想で一つ言っていただけたら今後の執筆に活かせると思うので、感想などでいただけたらなと思います。TSものを書く初心者で申し訳ありませんが、なにとぞよろしくお願いいたします。