ようやくまともな人キター!!
暇つぶしにマコトを再び撃沈させている間に、席は五分の一程度埋まり始めている。
「ふーん、それなりに凄そうな奴等を集めているカンジ?」
少なくとも目の前の変態や隣にいる天使、そしてルヴィのように十階層までは魔導方程式が解けるような面々が揃っているということか。
「それにしても、なんだかずば抜けた変人が他にいないね」
まあそれも今は目の前で大人しくしているようだが。
「…………はぁ」
「――あのー、隣いいですか?」
「えぇー!? 僕の隣は既に美少女二人の予約で埋まっているんだけど!?」
「そうかー、参ったなぁ……」
またマコトが調子のいいウソを言ってる……全く。
それにしてもごく普通の少年というか、平凡というか。変態に男の娘と続いて、最後にやっと正統派にまともそうな少年が来てくれた。
あたしは自分やルヴィ以外に男手のツッコミ役の確保するために、少年をマコトのそばに置くことを決める。
「別にそこ空いているけど?」
「えっ? そうなのか?」
「ダメだよ! 僕の隣に男が座るなんてあっちゃならないんだから――」
「そこの変態のことなんて無視してもらって構わないわ」
「……そうか、じゃあ失礼します」
いまだに不満げなマコトを置いて、あたしの次の興味は斜め前に座っている少年へと向けられている。
「で、あんたの名前は?」
「俺か? 俺の名はフューリー」
ただ一言フューリーとだけ言った少年にあたしは首を傾げると、名前の法則を把握するべくもう一度聞きなおすことに。
「名字は?」
「は? ねぇよそんなもん。だって俺はマジモンの平民だし」
「くすくす、まさかモノホンの平民を見るなんて、僕の冗談が真実になっちゃったみたいかな?」
マコトはそう言ってバカにするかのようにフューリーを嘲り笑う。
「僕は七曜の魔法家ではないけど鏡の一族だから、ちゃんと名字があるもんね」
なるほど、ここは昔のように名字がある者と無い者がいるということか。名のある一族なら名字があって、本当に名の無い平民は名字など無いのだと。
じゃああたしって田舎出身の中でも名のある一族の者だってルヴィは思いこんでいるのかな。
とはいえアリスですらブラッドストームという危なげな名字がある中、完全な平民出身である彼がここにいることは何気に凄いのでは、とあたしは口には出さずとも心の中でそう考えた。
「へぇーすげえな。ってことはこの中でも魔導方程式をかなり解ける方ってってことか?」
その言葉を前にルヴィは少しばかり眉を動かして反応を示したが、自分は隠れてきた身だからと何とか口から出ようとした言葉を呑みこんでいる。
ルヴィは七曜の魔法家とはバレてはいけない。だがあたしにはそんな事は関係ない。
「いやいや、そいつただのザコだから」
「えぇっ!? 流石にひどくないかい!?」
「そういうのはあたしに勝ってから、十二階層以上の魔導方程式を解けるようになってから言いなさい」
「じ、十二階層だって!?」
フューリーは驚くと共に、あたしに対し明らかにさっきとは違う畏れを交えた視線を向けている。
「お、俺が必死で編み出した【電気】=【直行】を見ても試験管の受けが悪かったのは、これが原因だったのか……?」
一歩遅かったら自分もそうなっていた身として、ルヴィは同情するかのようにフューリーに話しかける。
「それは、多分この方が先に【電磁】=【直行】を解いてしまわれたせいかと」
十二階層を見た後に十階層を見ても、凄いイリュージョンを見た後に簡単な手品を見ても満足がいかないのは自明の理。ウケの悪かった原因を知ったフューリーは、だからかといって頭を抱える。
「だぁー! 天井にデッケェ穴が空いてるワケだよチクショウ!」
「あははー! 残念だったねぇ」
「くっそー。村じゃ俺が一番魔導方程式を解く才能があったのに、都会でいきなり洗礼を喰らうとはなぁ」
フューリーは頭を掻いて悔しがっている素振りをごまかしてはいるが、内心は平民出身だからこそ本当に悔しいのだろう。
それにしても今の所まだアリスの隣、マコトの隣、そしてルヴィの隣の席は空いている。
辺りを見回してもまだまだ席は空いているが――
「……そろそろ終了、でしょうか」
ルヴィは先ほどあたしが無言でぶち抜いた天井から空を見て、そう呟く。
「どうしてそろそろなの?」
「この試験、締め切りは日が沈むまでと決まっているので……」
確かに空いた穴から差す光が弱くなっていっているような気がする。しかしそれならお昼食べた時に急ぐ必要はなかったんじゃ……?
「じゃああの時別に焦らなくても良かったんじゃない?」
「ですから、今のフューリーさんの様にネタ被りがあると審査員の評価に響くので……」
「あぅ、なるほどー」
まっ、あたしはネタ被っても普通に上回れるからねー。
そろそろ試験も終了間際、誰か滑り込みで来ないかなー。