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女の子より女らしい男の娘ってどういうことなの……

「――ったく、キモいったらありゃしない」


 あたしはわざとらしく両手をはたいてその場から去り、改めて気弱な美少女の方へと歩みを進める。


「さっ、一緒に座ろ!」


 あたしは先ほどの変態には絶対に向けないであろう笑顔でもって、少女の手を引こうとした。

 しかし少女にとっては、先ほどあたしが精神的に倒してしまった変態少年のほうが気がかりなようだ。


「だ、大丈夫かな……?」

「あー、あの変態なら気にもかける必要なんてないよ。ましてやきみみたいな可愛い女の子があんなのと一緒にいたら汚れちゃう」


 しっしっ、とあたしは寝転がるマコトを追いやる動作をしつつ、にこやかに少女と話しているつもりだった。

 ――だった、というのは目の前の少女(?)が顔を赤くして恥ずかしそうにしながらこう言ったからだ。


「――ぼく、男ですけど」

「え…………マジで……?」


 あたしは一瞬固まってしまい、そして次に出る言葉を失ってしまった。

 えっ? こんなのが男の子!? あり得ないでしょ!? この世界どうなってるの!?


「……ってことは、あそこでのたれ死んでいるやつと同じモノがついてるってこと……?」


 目の前に立っている男の娘はあたしの発言にことさら顔を真っ赤にして、うつむくように黙って頷いた。


「……ぼくの名前はアリス=ブラッドストームといいます。ぼく、あそこにいるマコトくんの友達です」


 下の名前が物騒なのは置いておいて、まさかこんな純粋天使みたいな子があんなゲス野郎とお友達だなんて……。


「この世の中って不条理すぎない……?」


 あたしはガクリと両膝をついてショックを受けたが、改めてアリスの手を引き直す。


「とりあえず、先に座ってようよ。きみの友達のマコトくんなら大丈夫だから」

「えっ、でも――」

「大丈夫、すぐに気絶から立ち直るくらいに手加減しておいたから(大嘘)」

「そ、それならいいのか、な……?」


 あたしは魂の抜けたマコトを放置してアリスと呼ばれる可愛い男の子の袖を引き、すぐ隣の席に座らせた。


「……それにしてもほんとに女の子みたーい」


 プニプニと柔らかい頬を突っついても、その反応の仕方がまさしく女の子がする行動。


「や、止めてくださいぃー……」


 少しばかり涙目になっていやがるだけで、何の反撃もしてこない。やばい、ナチュラルカワイイ。


「ほれほれー」


 今度はほっぺたをむにっとつねってみる。


「ひゃめひぇくひゃひゃひぃ……ぐすっ」


 ヤバい、泣き顔がそそられる。


「ぐへへへ、お嬢ちゃんどうやって可愛がってやろうかー」

「薫さん、貴方悪い顔になっていますよ」

「だってルヴィも見てよ、可愛いじゃん」


 そう言って涙目になったアリスの顔を見せると、ルヴィも多少は心動くところがあるのか目をそらしてしまう。


「っと、まあここらへんにしておいてやろっかなー?」

「うぅ……」


 他に誰か来ないものかと思いながら、あたしはその後もアリスの柔らかもち肌を堪能し続けている。


「ねぇ、今度一緒にお風呂に入ろうよ。本当に男の子か確かめたいし」


 やっべ、自分で言った後で言うのもアレだがこれはマズい。


「で、ですからぼく男の子で――」

「お嬢さん! 僕の性別性癖その他もろもろを知りたく――」

「無いからさっさと消えて。しっしっ」


 嘘でしょ、もう復活しやがったよこの変態。


「よく考えたら僕ぐらいの年齢は童貞で当然! むしろ童貞じゃない方が少数派と見た!」

「へー、そう、よかったね」

「そこで今度は僕からきみ達に質問したい! きみ達は処――」


 無言で【電磁ガンマ】=【直行レイ】。


「ひっ……」


 マコトの顔のほんの数センチ横を、極太のレーザーが通り過ぎる。


「……その質問をまだする気なら、次は【超電エレキック】で撃つよ」


 【超電エレキック】は第九階層。第七階層の【電磁ガンマ】より更に上だ。


「……調子に乗りましたごめんなさい」


 マコトはそのまま腰を抜かすように、ちょうどあたし達と反対側の椅子にすとんと腰を下ろした。


「全く、どうしてこんなド汚物と天使が友達なんだって話よ」


 あたしはある意味ミレニアム問題でも解くかのように真剣に考えていたが、それよりももっと重要なことをルヴィから知らされる。


「……貴方いま魔導方程式を暗算で解きましたよね?」

「暗算?」

呪文スペルを唱えなかったってことよ」

「ああー、まあさっきから【電磁ガンマ】=【直行レイ】撃ちまくってたし、いちいち口に出さなくても解けるかなーって」


 同じ魔導方程式を解くのだからそう何度も唱える必要もないだろう。なんとなく唱えた方がかっこいいけど。


「実はそれ凄いことなのだけど……普通なら第五階層以上は暗算なんてできっこないわ。ましてや十二階層なんて」

「え゛っ? さっきから僕は十二階層の魔法で何度も殺されかけてたの?」

「それが何よ?」


 あたしは不機嫌な目でマコトを睨みつけると、マコトは急に冷や汗だらだらになり始める。


「……今まで調子こいてすいませんでした」


 マコトもようやくおふざけが通用する相手じゃないと理解したようで、必死になってテーブルに頭を下げる。


「そうか、だから鏡の秘法でも抜けられなかったのか……」

「鏡の秘法って?」


 ここでようやくマコトから興味深い話が出てきた。ぼそっと小さく呟いたはずのマコトは、まさか目の前のアタシに聞かれていたとは思っていなかったようで更に焦り始める。


「鏡の秘法ってなに? 答えなさいよ」

「えっ!? それはちょっと、企業秘密で――」

「あれー? あたしの右手に何故か【超電エレキック】の呪文スペルが付与されているんだけどー?」

「答えます! 答えさせてくださいお願いします!」

「うむ、よろしい」


 これで何度目の命拾いだろうか、マコトはあたしのご機嫌を取るように懇切丁寧に秘法について説明を始める。


「鏡の秘法っていうのは、僕達カガミ一族だけの解き方みたいなものです」

「解き方?」

「簡単に言えば、微積をニュートン方式に解くか、ライプニッツ方式に解くかといったところかな」


 …………。


「……あたしの前で次に数学で例え話をしたら即KILLってくんで、そこんとこヨロシクゥ」


 てゆーか異世界にもこいつらいるのかよ……あたしヤバいんだけど。


「……か、簡単に言うと『1が10個で答えは何個?』という問題を、1+1+1+……と足し算を使って解くか、簡単に1×10と掛け算で解くかの差と思って下さい」

「ふむ、それで?」

「鏡の秘法っていうのは相手の魔導方程式を簡易化させ逆転させることで、知っている呪文スペルなら無効化させたり相手に返したりといったことができる技です……」


 なるほど。自分でも解けるレベルの魔導方程式の呪文スペルなら、相手の式でも干渉することができる、と。


「今回なら僕は【直行レイ】の方に干渉できたので、何とか目の前から逸らしたりして避けていました」

「……へぇー、じゃあそれの方法教えてくれない?」


 あたしは少しでも知識として得られるものはないかとマコトに問いかけたが、流石のマコトもそこだけは渋った。


「だ、ダメだよ! これは僕の一族だけに伝わる、まさしく秘伝の式なんだから! そう簡単には教えられない!」

「じゃあ、どうやったら教えてくれる?」


 マコトはそこでいつもの口調に戻り、堂々とあたしに喧嘩を売ってきた。


「僕と結婚して、鏡一族に入ってくれたら――」

「さーて、理屈は分かったし独学で習得するかー」

「えぇーっ!? 僕の立場は――」

「(いら)ないです」


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