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必死な童貞ってキモーい!(過去の自分から目をそらしながら)

「なかなか人集まらないねー」

「合格するのは一握りと言われていますからね」


 あれから一時間ほど経過したが、いまだに席が埋まる気配がない。

 先に座っている人たちに話しかけてもいいけど、今はすぐ近くにいる友達との親交を深めた方が先だ。


「それにしても、基準ってあるのかな?」

「性質と具象、合わせて十階層の魔導方程式を解けるかどうかが合格ラインではないのでしょうか?」

「そっかー。あたしは足して十二階層の【電磁ガンマ】=【直行レイ】だから合格ってことかな」

「そもそも十二階層解ける時点でおかしいと思いますけど……私も【深霧ミスト】=【発散フィーバー】で結構魔素マテリアルを削りました」


 それよりはるか上の十六階層、【雷光ライジング】=【絶撃フォース】も余裕で解けるんだけどねー。


「さてさてー、次に誰があの扉を開いてくるのか楽しみだねぇー」


 あたしはそう言ってだらりとテーブルの上に身を投げている。ルヴィはそんなあたしを見てため息をついているようだが、あたしとしてはすることないから退屈だ。

 それにしても暇だ。


「たいくつー……」


 あたしがゴロゴロし始めてしばらくすると、ようやく次の合格者が現れる。


「うわー凄いなー。こんな平民風情が到底入れそうにない所に、僕なんかがタダで入れるなんてお得すぎやしないかい」

「うう……ぼくなんかがこんなところにいていいのかな……」


 なんと合格者が二人。片方はひょうひょうとした態度で無作法に部屋に入り、もう片方はおどおどとした態度で恐るおそる一歩足を踏み入れている。

 ひょうひょうとした態度を取っているのは童顔の少年だった。少年は相手を小ばかにするように、喋るときには常に妙死に芝居がかった表情と身振り手振りを加えて喋っている。


「さて、ここでとうとう僕のモテモテライフが始まるワケなんだね!」


 童顔で純朴そうな少年からは到底出るとは思えない欲望めいたセリフが聞こえた気がしたが、あたしとルヴィは敢えてスルーした。

 そしてもう片方、おどおどとしているのは気弱そうな少女であった。貧層な胸の前で両手を合わせ、目じりにはうっすらと涙をためておどおどとしている様は、現在女であり元々男だったあたしでもキュンと来るものがある。


「す、隅っこ大人しくしてよ……」


 やばい、隅っこで縮こまる様に座っている姿が可愛すぎる。


「……ねぇねぇ!」


 あたしは敢えて席を立って、声をかけてみた。

 声に反応したのは二人。童顔の少年と気弱そうな少女。だがあたしが用があるのは――


「そこの隅に座っている子さー、あたし達の所にきなよ!」

「えっ、ぼく……?」

「そうそう! ほら、おいで!」


 あたしはそう言って席から離れ、少女の方へと近づこうとした。

 すると――


「ちょっと!? 僕には何もないのかい!?」

「はぁ?」


 あたしは声の主に対して首を傾げた。今の会話聞いてた? どう考えてもあんたには話しかけてないでしょーが。

 それでも少年の方は、異議アリといった様子であたしに主張を続ける。


「どうしてこの僕が、無視されなきゃいけないんだい!?」


 独りミュージカルとでも言おうか。歌うように喋っているわけではないが、身振り手振りを交えて少年はテーブルの上に立ち、高らかに喋っている。

 ……全てが胡散臭い。


「この僕が、腹黒系童顔美少年のマコト=カガミのことが嫌いなのかい!?」

「いや知らねーよ」


 こんな自己紹介には素でツッコみを入れざるを得ない。それにしても、随分と日本チックな名前だ。これが本来のジパング出身なのであろうか。


「……ちなみにあんたどこ出身?」

「ふふふ、知りたいかい? ようやく僕に興味が出たかい?」


 興味ないです。

 そんなあたしの感想をよそに、マコトはテーブルを降りてあたしの前まで歩み寄る。


「知りたいのなら教えてあげよう……きみが僕に無償の愛を提供してくれるなら!」


 マコトと名乗る少年はあたしの前で片膝をつき、手のひらをこちらの方へと向ける。

 もはや冷めた目でしか見れないが、一応聞いてみることに。


「……何それ?」

「具体的には脱ぎたてのパンツ、もしくはそのおっぱいを触らせていただくだけで結構!!」


 ゾクッという悪寒とともに、あたしは数歩引く。ルヴィに至ってはまるで貞操を守るかのように両手で胸を隠すようなポーズをとっている。


「さあ、こんな僕に愛を――」

「やるかぁぁぁあー!!」


 ゼロ距離【電磁ガンマ】=【直行レイ】!!


「えっ、ちょ――」


 ドンという地響きに近い音とともに、光の柱の余波である微弱な電流が会場の壁に沿って駆け巡る。

 高級そうな床をぶち抜いてしまったが仕方ない。これも一人の変態を始末するため。

 だが――


「――弱ったなぁ。これまで僕が告白してきた中で一番のフラれ方だよ」

「……あんたよく生きてたね」

「二回くらい死にかけたけど、何とか生きることができたよマドモアゼル」


 あたしの魔法で少しは化けの皮が剥げたのか、マコトと名乗る少年は先ほどまでのふざけた雰囲気を消してようやくまともに喋り始める。

 それにしてもどうやって逃げたのだろうか? 【光速ソニック】=【消失バニシング】のような魔導方程式が発動された気配も無し、かといって低い階層で避けられるようなものではないと。


 ――まあ、そうとなればまだまだ試したい魔導方程式がいっぱいあるからいいんだけどね。


「ごはっ……この僕、マコト=カガミは女性の攻撃で死ぬことはない! 決して!」


 マコトはさっきのダメージで口に溜まっていた血を吐き出すと、再び元の口調へと戻り始めた。が、しかしここであたしは一つ試してみたいことを目の前の言い放ってみる。


「――キモッ。童貞風情が何か言ってるし」


「…………」


 冷たい視線で、できる限り引くような声であたしはそう冷たくつきつける。

 これはあたし自身も男の身体の時にその身でもって味わった究極の精神攻撃だ。


「…………ガハッ」


 数瞬置いてマコトは静かに涙を流し、口から血を盛大に吐いてその場に倒れ伏した。


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