ようやく一息、普段の授業だにゃー
あたし達が校庭に出ると、既に授業を受けるために学生が大勢集まっている。
「そこの二人! モタモタするんじゃない! 後十秒で遅刻と認定し、授業を受けさせないわよ!」
「うわわ! やばっ!」
遠くで箒を持った元気そうなおばあちゃん先生が叫んでいる。あたし達は更に【風速】=【疾走】の加速度を上げて駆けていく。
「ギリギリセーフ!」
「一秒前……まあセーフということにしておいてやろう。その辺にある箒の近くに立つように」
滑り込みで授業に参加できたあたし達は、辺りを見回して芝生の上に置いてある箒の近くに立った。
「まずは初めまして、私の名前はケルマーだ。宜しく。早速だが授業に入らせてもらおう」
話し方からして、さばさばした性格のおばあちゃん先生みたい。背筋も曲がっていないし。
「諸君の中には既に【飛行】の呪文を覚えている者もいるだろうが、まずは……その足元に落ちている箒に、何でもいいから【浮遊】の呪文を組み込んだ魔導方程式を使って浮かせてみなさい」
「【浮遊】……第二階層の呪文ですね」
「ふーん……何でもいいのかー」
ちょっとルヴィ、そんなに見つめなくても流石に【光速】は使わないってば。
「【風速】=【浮遊】!」
既に他のメンバーは続々と浮かせていくなか、あたしも続くようにして箒を浮かばせる。
「……まずは箒の性質を変えようっと」
【鋼銀】=【錬金】で箒の柄に銀をコーティングして――
「――【電流】=【浮遊】!」
あたしの手から電流が流れ、電流は箒の表面の銀と接触するなり箒をあたしの手元へと引き上げ始める。
「これでよしっと」
その様子をケルマー先生は見ていたみたいで、嫌味を言うつもりではないんだろうけどあたしの回りくどいやり方に口を出してきた。
「ずいぶんとユニークなやり方をしているみたいだが、普通に【風速】=【浮遊】あたりでいいのよミストウジョー」
げっ、この先生あたしの名前知っているし。
「生徒会庶務だからって、他と違うやり方をする必要はないからね」
「はい、分かりました……」
生徒会だからじゃなくて、単純に面白い浮かばせ方したかっただけなんだけどにゃー。
それに今ので変に悪目立ちしたせいか、周りの生徒からの視線も集まり始める。
「……あははー、ちょっと試したかっただけだからー」
やめてくださいそんなに注目されたら前世のトラウマで死んでしまいます。
「薫さん。平常通り、皆さんの真似をしましょう」
「そ、そうだね」
あたしとルヴィは内密に話を済ませることで相談を終えて再び先生の方を見ると、先生はまずここまではできて当然といった様子で次のステップの話をし始める。
「では今の要領で次は【飛行】の呪文を組み込み、更に補助式として【操作】の式を組み込みなさい。【飛行】は第五階層、【操作】は第二階層の式だから、基本的には第三階層の呪文を組み込むのが望ましいわね」
先生はさらりと課題を言い渡し、あたしはそれをすんなり聞いてやろうとしたけど、周りの生徒はというと難儀なご様子。
「第三階層に絞られた上に、合計で十階層になるなんて……」
「これだと魔素がすぐに枯渇しちゃうかも……」
「……ねえルヴィ、普通だと魔導器官って十二階層一発で息切れ何だよね?」
「ええ、まあそうですけど……」
「それって第十階層だと何回分になるの?」
「個人差はありますが、おおよそ四回になります」
「あれ? 意外と発動回数おおくない?」
「そう思いますけど、減った魔素を回復するにはそれなりの時間が必要ですから」
なるほどにゃー。
「基本的に階層が一階層減るごとに、差し引き二乗分の使用可能回数が増えるのですよ」
「…………」
「? どうしたのですか薫さん? 難しい顔をして」
二乗って何だったっけ……。
「お願い、具体的に!」
「あっ、すいません! 薫さんは苦手でしたね」
数学がね! 数が苦になっちゃうんだよね!
「階層差が二だと四回、三だと九回。一は例外で、二回となります」
「……つ、つまり、十一階層と九階層だと差が二だから四回、十一階層と十階層だと二回ってことでオッケー?」
「おっけーです、薫さん」
よっしゃ! この調子!
っといった感じであたしがはしゃいでいると、周りから疑問の声が挙がり始める。
「……本当にあれで庶務なのか?」
「さあ? 少なくとも魔法じゃないところでつまづいているみたいだけど」
ぐぬぬぬー、笑ったなー! いいでしょう、あたしの実力ってやつを見せつけてやるんだから!




