式を三つ繋げると……?
「ちっ、どこに潜んでいるのか……」
「次の式は……これだっ!」
フューリーは更に状況を有利に運ぶために、次なる魔導方程式を解いていく。
「【陽炎】=【分散】=【肉体】!」
「にゃに!?」
また式が三つになった!?
「補助式を付けましたか」
「補助式?」
「式の最後に、付け加える呪文のことです。大体は式の正確性を上げたり、ピンポイントに魔導方程式を適用させたいときに使います」
なるほどなるほどー。だからあの時のヴィンセント先輩だと、【手腕】で鋼鉄の腕を召喚したって訳かにゃ。
そう思っている間にもフューリーの身体から滲み出す陽炎により周辺の空気はねじ曲がり、気温も徐々に上がっていく。
「くっ……面倒なマネを!」
男の額から汗が一筋流れると共に、早く探しださなければ不利になりえるのではないかという考えが浮かび上がり始める。
とまあ、ここまで見た感じだとこういう風に思っちゃうんだけど、あたしとしてはフューリーが結構回りくどいやり方をしていないかと思っちゃったりもする。さくっと物陰からより深い層の魔導方程式ぶっ放せば終わると思うのに。
「……ルヴィはさ、この戦いどう見る?」
「私、ですか? ……やはり現状を見る限りだと、この方法で間違いはないかと思います」
「へっ? どうして?」
魔導師の戦いってこんな感じなの?
「相手は銃を持っているため、どうしても詠唱する時間――つまり、魔導方程式を解く時間分の隙が命取りとなってしまいます。ですからああやって物陰で呪文を組み立てながら、地道に敵の様子をうかがうほかありません。何よりこちらには魔導器官による魔素の残りも考えながら、式を組み立てるしか…………まあ、薫さんならそんなこと考えなくてもいいかもしれませんけど」
「あははー、結構難しいんだね」
そんな苦労なんてしたことないあたしは、ルヴィの言葉に対して苦笑いで誤魔化すことしかできなかった。
「二人ともよく見ておけ。次で恐らく決着だ」
キリュウ先輩の言う通り、フューリーは意を決したかのような表情で物陰から飛び出し、最後の決着をつけにかかる。
「ッ、行くぜぇ!」
「何ッ!?」
完全に男の死角から飛び出したフューリーは、これまで取っておいた魔導方程式をぶつける。
「【火炎】=【投擲】!!」
「っ、だが遅い!!」
そこは戦闘に対する経験値の差だったのだろう。軍の男はすぐさまに振り返り、銃の照準をフューリーへと合わせる。
しかし――
「二人、だと!?」
なんとフューリーは二人に分身しており、男の方もどちらに照準をつけるべきかを迷ってしまった。
陽炎による分身。フューリーはこれを狙って【陽炎】=【分散】=【肉体】を解いたというのか。
「――これで終わりだ!」
フューリーは焔の魔球を振りかぶってそのまま――男の足元へと投げつけた。
「んん!?」
「えっ?」
「は?」
その場にいた誰もがその行動に目を丸くした。なんとフューリーは魔導方程式を直接当てる事無く、試合を終えようとしているのだ。
「えっと、これはどうなるの?」
確か仕合を決めるにはどちらかが一撃加えないと終わらない――
「ごはぁっ!?」
「ああっ!」
男は勝ち誇っているフューリーのお腹に向かって容赦なく発砲をした。そしてそれを見ていたグラモリウスはニヤリ、と笑う。
「すまないねぇ。魔導師候補の方々は知らないかもしれないが、我々軍は戦場で相手に情けをかけてはいけないのでね」
「酷い……!」
あたしも少々ムカッと来た。あれだけ頑張ったフューリーが、こんな目にあっていいはずがない。
「……次、やっぱりあたしが出る」
「薫さん! 落ち着いてください! ゴム弾ですからそこまでは――」
「じゃあ、あたしもそこまで痛くない方法で勝って見せるから」
次の試合、少々荒れるかもにゃー……!




