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異世界まで行って学校とかチョーだるーい

「へぇー、じゃあさっきのは親御さんのお迎えだったってワケ?」

「そんな生易しいものではないです。今家に戻されたら、もう二度と外を歩けなくなってしまいます」

「あっはっは、そりゃ大変だ」


 あの襲撃の一件の後、あたしは取り敢えずこの世界について知るために例の少女と一緒に近くの食事処レストランへと足を運んでいる。


「それにしても貴方は一体何者ですか? 本来なら熟練の魔導師が血反吐を吐きつつ人生をかけて体得するほどの魔導方程式を、あんなに簡単に――」

「そりゃー、才能ってやつなんじゃない? そもそもあたしはここに来てさっき初めて魔法を知ったワケだし」


 あたしはそう言って注文で来た惣菜が挟んであるパンを片手に適当に答える。といっても、それ以上はあたしも説明できない。自分としては「考えるな、感じるんだ」的な理解の仕方に近かったし。


「……そう言われてしまいますと、私も何も言えないですわ」


 そんな適当な答えに少女はあきれたのか、フフッと笑うだけでそれ以上の詮索をしてくるようなことは無かった。


「そういえば、名前聞いていなかったね」

「っ……そうです、ね」


 少女はあたしの無頓着な問いかけに対し、少しばかり戸惑いの色を交え、恐るおそる自己紹介を始めた。


「私はルヴィ。ルヴィ=ロッドといいます」

「へぇー。あたしは……東条とうじょうかおるっていうんだ」


 前世の名前は女っぽかったけど、この姿だとぴったりかな。この際だから西条も東条に変えちゃっておこう。

 そしてあたしはルヴィのような形式の名前など、日本ではない珍しい名前としかとらえていなかったが、ルヴィとしては逆にそのような対応に目を丸くしているようだ。


「……驚かないのですか?」

「何が? あぁー、あたしの所とは名前の作り方が違うよね」

「そうじゃないです。あのロッド家を知らないのですか?」

「知らない。有名なの?」


 ルヴィはあたしの無神経な質問に絶句した。


「ロ、ロッド家というのは七曜の魔法家の内の一つ、水曜を司る大魔導一家なのですが!」

「ふーん……そもそも七曜って単語自体、初めて聞いたし」


 あの参考書には魔導方程式の解き方しかのってなかったからね。

 あたしの回答に呆れかえったのか、とうとう少女は目の前で大きくため息をついた。


「……七曜とはこの世界における魔法の性質を大別したもので、日、月、火、水、木、金、土と七つの性質を指しているのです。そして――」

「へぇー、曜日みたいだね」

「……曜日、とは?」


 今度はあたしの率直な感想に対してルヴィが疑問を持った。


「えっ……曜日を知らないの?」

「……すいません、東洋の魔女の風習は知らないものですから」


 東洋の魔女って……というより、この名前の形式の人もこの世界に入るってことか。


「ま、日付を分かりやすくするもの程度に思っておけばいいよ。それよりこの世界について教えて欲しいんだけど――」

「この世界? ここ《マギカ》という国についてでよろしいのですか?」


 そういえば外を見る限りだと近代のヨーロッパっぽく発展しているけど、一応異世界なんだ。

 ……日本語通じるのに。


「あっ、じゃあそれで。あたしこれでも結構引きこもりだったから、結構世間に疎くてさ」

「まあ! 異国でも地方の方でしたの。それでしたら先ほど助けていただいたお礼に、お教えします」


 今は何でも情報が欲しい。中途半端に転生したからには、きちんとした情報を怪しまれない程度に収拾せねば。

 幸い異国の地方の田舎者、更に引きこもりとある意味ルヴィとは違う意味で世間から隔絶された存在だと勘違いしてくれているおかげで、今のところスムーズに情報を引き出せている。


「ここ《マギカ》はその名が体を表すかの如く、世界中から優秀な魔導師が集まる魔導国家なんです。特に今私達がいる学園区域では優秀な学生が集まっていて、中でも七曜魔導学院は学費もいらないところから本当に実力者だけがくるとの評判です。その学校では入学テストの実力のみで合否を図り、そして一度入る事ができれば学費は無料、そして卒業できれば必ず国家魔導師資格を得られるという豪華な特典つきなのです!」

「……すっごい目が輝いてるねルヴィ」

「だって、私も今日そのテストを受けるべく家を抜け出し――って!」


 ルヴィはそこで顔を真っ青にして話を切る。


「……私そのために今日抜け出してきたのに、どうして今ここで和やかにランチタイムを取っているのですか!」

「えぇー、あたしに言われても……」


 ルヴィは食堂の壁に掲げられている時計に目をやり、そして急いで席を立つ。


「今からでも遅くはありません! さあ、共に参りましょう!」

「共にって……あたし飛び入り参加になるんだけど」

「毎年それはオッケーだそうです! さあ、貴方も!」


 あたしはルヴィの手に引かれるがまま、街の中を走ってゆく。しかし有名な学園地区名だけあって、学生の人ごみがあたし達の行き先を阻む。


「くっ、これでは間に合うかどうか――」

「じゃあ、これはどう?」


 あたしはさっき覚えた魔法の内の一つを使う事で、目的地までのショートカットを提案する。


「場所はどこにあるの?」

「この先に見える時計塔の下が七曜魔導学院です!」


 確かに時計塔が遠くに見える。


「じゃあ行くよー。――【光速ソニック】=【消失バニシング】!!」


 ルヴィとあたしはその場に光を残して消え、目的地である七陽学院へと高速で飛び立っていった。



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