もふもふ! もふもふ!
開けましておめでとうございます。更新が遅れて申し訳ないです。
「ここまでおいでー!」
「待てぇー!」
うーん、やっぱり挑発されると野生の本能というか、オオカミとしての本能が優先されるのか、あの臆病なアリスがあり得ないくらいに執拗に追いかけ回してくる。
そのおかげか他の生徒には目もくれていないようで、一直線にあたしめがけて突き進んでくれている。
「……もうすぐ校庭なんだけどにゃー……どうするか考え付いていないんだなこれが」
おもいだせあたし! 今までに何を得てきたというのだ!
そんなあたしの脳裏に、ヴィンセント先輩からのある言葉が浮かび上がる。
“次に七曜について説明をする。七曜とは、日、月、火、水、木、金、土の七つの属性のことを指す。日曜は主に光や電気系統を司り――
――月曜は、重力や闇そのものを司る“
「これだ!」
月曜の呪文といえば、教室をいくつか覗いてきたなかで見たものがあったはず。
うーん、あれでもないこれでもない……これは土曜の呪文だっけ? えーっと――
「――あっ! あれがあったか!」
なやみながら走っている内に校庭に出たあたしは、突然大きく後ろを振り返ってアリスと相対する。
「はぁ、はぁ……ぼくだって、お、怒るとこわいんだぞっ!」
「うんうん、アリスは怒った顔も可愛いよね」
「っ、このぉっ!」
簡単な挑発に対し右手を前にしてストレートに突っ込んで来てくれるのはありがたいねぇ。
あたしは地面に右手を置き、魔導方程式を一つ解いてみせる。
「【重力】=【場】!!」
それまでまっすぐに伸びていた芝生の葉先が、あたしを中心に人の足で踏まれたかのように次々と押しつぶされる。
「――っ!? あっ!?」
アリスも例に違わずその場に両手足をついてその場に伏せ、微動だにできずにいる。
「……ふぅ、とっさだからかなり広範囲になっちゃったけど、まあいっか!」
「ぐ、ぐ……ぼく、は……」
何とか抵抗しようとするも指先一つ動かせないアリスの元へと、あたしは一歩一歩ゆっくりと近寄る。
「……もふもふして可愛いのに、どうして怒るの?」
「ぐっ……ぼ、ぼくだって男の子なんだ! 可愛いじゃ駄目なんだ!」
んー、やっぱり人狼化していると少し口調も荒くなるのかな?
「でもあたしは、いつものアリスの方が好きかなー」
そういってあたしは身動きの取れないアリスを抱きしめ、頭をゆっくりと撫で始める。
「え、ふえぇ!?」
「おーよしよし、落ち着け落ち着けー」
うーん、オオカミなんだしい犬の要領で大人しくなってくれないかにゃー。
「な、なにするの!?」
「大丈夫だいじょうぶ、血を見て驚いただけだもんねー」
遠くに見えるマコトが血の涙を流して羨ましがっているように見えるけど無視。今はアリスを大人しくすることに集中しなきゃ。
「ぼく、ぼく……」
あたしがしばらくあやしていると、アリスに生えていた耳と尻尾がじょじょに縮まっていき、元の人間の状態であるアリスへと戻っていく。
「……ぼく、戻ったの……?」
「ふぅ、よかったよかった」
さりげなく犬耳ぼくっ娘をもふもふできたし、満足満足。
「あ、ありがとう……トウジョーさん」
「いいっていいって! 可愛いアリスのためだもん!」
「……貴方、凄いわね」
いつの間にか近くに来ていたクロウン先輩が、目を丸くしてあたしに向かってそう言った。
「どうしてです?」
「だって、あり得ないでしょ? 人狼を大人しく沈めることが出来るなんて。本来なら並大抵の人間は近づくこと自体禁止されているのよ? 最初の貴方の様に切り裂かれかねないもの。魔導方程式も、それこそ第十階層レベルでようやく対処できるものなのに」
「……それは、普通に倒そうとした場合のお話ですよね?」
「ええ、そうよ…………まあこの場合は、気絶してもらおうとアタシは方程式を立てていたけど」
「あたしはアリスを傷つけたくないから、直接触れたんです」
あたしは論理的なクロウン先輩に対し、あいまいな答えしか返せなかった。しかし先輩はそれを聞いて少し考えた後に、「なるほどねぇ」と呟く。
「……まあ、貴方達二人の間には通じ合うものがあるのかしら? それは素晴らしいものだし、アタシや他の誰も持ち得ていないものだと思うわ」
クロウン先輩は真面目な表情をしていたが、あたしはそこで茶化すかのようにこう言った。
「まあ、アリス可愛いですからね」
「それは分かるわ。彼女は――」
「ぼく、男の子です……」
「えぇ!? ウソでしょ!?」
あたしも最初は嘘だと思っていました。




