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設定ミスとかありえないー! ―プロローグ―

「じゃあ今日もパシリよろしくな!」

「うっせ! 死ね!」

「あぁ!? ぶん殴るぞ!!」

「止めてください死んでしまいます」


 ダメだ。全然ダメだ。俺、ヘタレ。

 お昼前のチャイムが鳴ると同時に、俺の周りには毎回こうやっていつものグループがやってくる。

 そして決まったように、学校の昼休みに焼きそばパンを買ってこいと言われる。


「オラッ! 殴られたくなきゃ三分以内に買って来いよ!!」

「お金は――」

「自腹に決まってんだろボケ! ぶっ殺すぞ!!」


 抵抗しても無駄。襟首を掴まれて数発ぶん殴られて終わり。


「チッ、今月の俺の小遣いが――」

「さっさと買って来いよ、か・お・る・ちゃーん」

「俺は男だっての!」

「でも下の名前は薫だろ?」


 何も言い返せない。ただ俺の名前が西条さいじょうかおるってだけで、こうして弄られ、パシられる。


「お前等覚えとけ……いつか絶対に会社とかで偉くなった時に、こき使ってやる……!」


 そして毎度毎度俺の捨て台詞に対し、あいつ等は半笑いになりながらこう否定する。


「ブハァッ!? そ、それは無理だっての!!」

「だ、だってお前――」


 ――数学ゼロ点じゃん。


「……うわぁぁぁぁん!!」


 こうして俺は毎日、半べそになりながら購買部の方へと走っていくのであった。



     ◆ ◆ ◆



「――クッソ! どうにかして今度のテストで百点を――」


 俺はそう言って悔しがりながら毎日家に帰る道すがら、数学の参考書を片手に歩いている。

 もちろん、そんな俺の姿は周りから見ればがり勉の勉学少年に見えているだろう。


「……ムムム」


 口では理解しているように言っているが、その実一切分かっていない。え? 因数分解? 俺の脳の成分が分解しそうなんだが。サインコサインタンジェント、謎の呪文にしか見えない。


「……だぁーっ! 分からねぇー!」


 何だこれは!? どう足掻いても黒魔術の呪文の羅列にしか見えない。

 小学校時代の足し算引き算にはついて行けていた俺だったが、なぜわからない!?


「……いや、これは俺の思い込みなのかもしれない」


 自分で出来ないって思っているだけで、実は簡単なのでは? 現に俺をパシリにしている茶髪の馬鹿そうな奴ですら、赤点ギリギリをとれているワケだし。


「……もう少し読み進めて行こう」


 普段から読書が趣味の俺だ、これも海外の書籍と思えば――


「あっ――」


 本来なら地面のアスファルトを踏んでいるはずの右足が、宙に浮いている。次の瞬間には、俺の身体全体が地面に吸い込まれていく。

 違う。吸い込まれているのではない。これは、落ちているのだ。


「――うわぁっ!?」


 夕暮れ時、誰のイタズラであろうか。

 下水道の蓋をするはずのマンホールが、全開となっている。

 そんな中、地面は俺を飲み込んでいった。



     ◆ ◆ ◆



「――いてて……あれ?」


 下水道って、こんなに暗かったっけ? 

 俺はいまだに痛みが響く腰をさすりながら、暗闇の中一人立ち上がる。


「……まずいんじゃないの?」


 暗闇に一人。もっと言うと、これから夜になるのだから誰も自分に気がつかない。


「おーい!! 人が落ちているんだけどー!!」


 上の方を向いて声を張り上げる。しかし声は残響すら残さず、ひたすらに闇の中へと消えていく。


「……本格的にマズいな」


 暗闇の中、マンホールに落ちた人間を誰かが助けてくれる確率は――


「……計算できん!」

「アハハ! 笑える! チョーウケる!!」


 なんだ、上から声がするってことは地上には誰かいるってことだな。


「助けてくれないか! マンホールに落ちて抜け出せないんだ! 明かりとかくれないか!」


 暗いからはしごも見えないし、何より下手に動いて下水道に落ちたくない。

 そんな悲痛な俺の声に対し、上からは非情な答えが返ってきた。


「無駄だよ無駄、きみはもう死んでいるからさ!!」

「……は?」


 どういうことだよ!? 死んでるって――


「だってさー、あのマンホール特別に深くて下に落ちるまで十メートルほどの高さがあるんだけど、それを私が操作して頭からまっさかさまに落ちるように仕組んだんだから。結果、落ちて約1.02秒後には頭がかち割れて即死ってワケ」

「……じゃあなんで俺は頭が正常なまま、喋れるんだよ」

「それは簡単」


 上から聞こえていた声が今度は横から響き渡り、そして俺の目の前に唐突に現れたのは丁度俺と同じ年くらいの、三つ編みに眼鏡をかけたセーラー服の少女の姿だった。少女はいたずらっぽく俺の目の前で笑い、両手を後ろにしてこちらの顔を覗き込んでいる。

 ……よく見るとカワイイな。


「私がきみを呼んだから」

「呼んだ?」

「正確には、きみの魂を入れていた器が壊れた時から、かな」


 意味が分からん。


「……で、あんた誰?」


 目の前の少女はくっくっくっ、と大げさに笑い、そして高らかに宣言した。


「私が、神様だ!!」

「………………すいません、脳関連の病院はここじゃなくて一個手前の四ツ角を曲がった所にあるんですけど」

「ハァッ!? ちょっと失礼過ぎないかねきみは!?」

「だってそんな姿で神様宣言とか、ちょっとねー」


 俺は目の前の危険人物から目を逸らしつつ、遠慮気味にそういった。


「ちぇっ! 折角次の受肉用の肉体まで持って来てやったのに!」


 そう言って目の前の少女は自分を指さしている。

 ……俺は男なんだが。


「……もし神様だったとして、そもそもなんですか!? 俺をマンホールで殺した目的は何ですか!?」


 俺の怒りの入り混じった訴えを聞くなり、神を名乗る少女は説明しズラそうに腕を組み始める。


「うーん、なんて言おうか……きみが生まれる世界を手違いで間違ってしまったから、十五年たった今更ながらリセットしようかと」

「……なんですか、それ」


 目の前の少女はそこから苦笑い気味に、俺の設定ミスについて語っていく。


「実はきみの才能の設定ミスっちゃって、数学の才能を低くして、魔導方程式を解く才能を世界初の天才級に設定していたのよ。そんな設定だったとしても、この魔法の無い世界にいれられちゃったらどうなるかは、身を持って知っているよね」

「だから俺はこんな惨めな人生を……」

「あっ! ちなみにきみの性別設定もミスっちゃってたから。本当はきみ女の子で生まれる予定だったんだよ」

「そこ盛大に間違っちゃいけないところだよね!?」


 だから俺の前には女の子が立っているのかよ。


「だーかーら、今から元の世界――とはいっても今の君からすると異世界だけど、転生させることにしたんだ」

「……そうですか」

「イヤなら元に戻すけど?」


 まあ、特に今の世界に未練とか無いですし。生き残ってもまたパシリの上、数学に苦しめられるだけですし。


「転生しますよ……この際女でも、かまわないっす」

「この世界で生きた記憶はなくなっちゃうけどいいよね?」

「別に、いいです」

「じゃあ、はい」


 少女は俺の目の前でこと切れ、暗闇の中横たわる。


「まずは受肉しなよ」

「……どうやって?」

「簡単さ。半径百五十センチの青い円を想像し、その中に入りこむイメージを持って、目をつぶればいい」

「半径百五十センチの青い円……半径って――」

「とにかく青い円に入りこむイメージ!」


 俺は声の指示に従い、目をつぶった状態で頭の中で蒼い円をイメージし、その中に入りこむ。


「…………」

「目を開けてごらん」


 俺が次に目を開けると、目の前には倒れ込んだ俺の姿が。

 そして――


「……これは」

「おめでとう。それがきみの新たな肉体だ」


 俺はまず最初に、下半身の方に手を伸ばした。


「……ない」

「……きみ躊躇なくそこに手を突っ込んだね」

「だってあるかないかで性別は分かる――ハッ!」


 確かに冷静に考えれば、自分のパンツの中に手を突っ込む女子高生とか変態だ。

 俺はすぐさま手を引くとともに、今度は別の箇所を確認する。


「…………胸が、ある」


 少々控えめだが。そして目の前に突如現れた鏡に映る自分の姿を見て、俺はこう呟いた。


「……マジで女になったんだな。あたし」


 神と名乗る何者かが入っていた時より、少々目つきの方は悪くなっているようだが。

 ――あれ? 一人称まですんなりと変わってる。


「じゃあ早速だけど、君がいるべき世界へと飛ばさせてもらうね」

「……そうだなぁ、次の人生では学者になろうかな」


 読書とか好きだし。他人に偉そうにできるし。


「クスクス、そのための才能だからね。じゃあ――」


 ――行ってらっしゃい。









「あ。あの肉体私が入っているときのままの設定だから魔導器官メディアオルガンの容量がヤバいままかも。しかも肉体年齢が十五のままだし。おまけにこの世界の記憶消し忘れてた」

 ――まあいいや。多少の設定ミスくらい。


ということで、魔法もの+TSものをそれなりに書いていきたいかなと思います。

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