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プロローグ

 小説初心者ですが、今まで色々と拝見させていただき私も書いてみたいと思ったので挑戦してみました。テンプレと言われてしまう様な物しか書けないかもしれませんが読んでいただければ幸いです。第一目標は完結です。


 誤字脱字の報告、ご意見などございましたらお気軽に感想をお送りください。評価やブックマーク等して頂ければ泣いて喜びます。

 柔らかな日差しの下、巨石が隙間なく積み上げられた砦のそばで、二人の戦士が武器を構え向かい合っていた。

 巨大な斧槍を構えた紅髪の戦士はゆらゆらと穂先を動かし隙を狙う。相対する重装の戦士は巨大な盾を持ち、長剣をぴたりと脇に構えそれを迎え撃つ。膠着の時間は終わりつつあった。


「ぜあッ!」


 気勢を上げるや否や、重装戦士が盾をたたきつける様に突進する。しかし槍をふるう戦士は流れるような足捌きでこれをかわすや、瞬時に二度、突きを入れる。初撃は盾に弾かれるも、わずかに逸らして放たれた二撃目はポールドロンと呼ばれる肩当を削りとった。


「盾を上げすぎて前が見えてないぞ!」


 あわてて停止し向かい合おうとする重戦士。だが赤の戦士は軽やかなステップでさらにサイドに回り、強烈な薙ぎ払いを盾にぶち当てた。大きくのけぞる相手の足元に隙をみるや、反動のままにすぐさま斧槍を返して石突で足を払う。


「くっ、そっ」


 足を踏みかえ、何とかバランスを持ち直し転倒をまぬがれた重戦士は、流れた体のままに強引に長剣を袈裟懸けに振り下ろす。


「甘い」


 柄をかしげ、するりとそれをいなすや手の中で槍が魔法の様に旋回し、次の瞬間には巻き上げる様に剣を弾き飛ばした。


「…降参だ。くそっ」


 離れた地面に剣がからんと落ちると同時に、面頬の下から苦々しげな声があがった。




「あー……なんで負けるのか全然わかんねえ。大概のやつは最初のぶちかましからの突きで怯むんだよ。なんなんだあのヌルッとした動きと異様に重い攻撃は……」


 地面に座り込んだ戦士の男が愚痴ると、石壁にもたれた槍遣いの口からは快活な笑いが起こる。


「はは!俺にはあの突進は隙にしか見えないけどな。それに筋力に大きな差が無いんだから、両手武器の攻撃を無闇に防御するべきじゃない」


 そういうと槍を取り、壁から離れるや左右に小刻みに、すべるように動く。すばやく、精密な足取りには隙がなく、覚えのある者が見れば四方に迫る敵を想定しているとわかるだろう。

 男は爬虫類の様な縦長の瞳を細めて教え子にするようにいう。


「このゲームは人間のあらゆる骨格や筋肉を再現してるんだぞ?古いRPGみたいに近づいて斬る、だけじゃなくてもっと人間の体だと意識して動かないとな。さっきの剣を弾いたのも、体勢が崩れたのに無理やり当てようとしたから簡単に出来たんだ。俺だけじゃなくてサーバートップ百人くらいはみんなその辺、考えて戦ってるぞ」


 そういわれると、戦士は座り込んだままガリガリと頭をかいて唇を前に突き出した。


「……言ってる事はわかるんだけどなあ……俺ただのゲーマーだし。ディアスってやっぱどっかの凄い武術家のセンセイなんじゃないのか?」


 彼からすれば、何かの競技をやってでもいなければとてもそんなことは出来そうにないのである。もっともこの青年も、それなりに名は通っているのだが。

 だがディアスと呼ばれた戦士は複雑な笑みを浮かべる。


「リアルの話しは無しって前言っただろ。それじゃ、俺は飯もあるし一旦落ちるよ。夜またインするから、時間が合えばクエスト付き合うよ。じゃあな!」


 そう言って、淡い粒子の輝きを残して消えていった。




 夕刻。青年の体は病院のベッドの上にあった。バイザーが動くと頭頂部に持ち上がる。あらわになったその顔は少し頬がこけ、長い睫の下の瞳は物憂げに揺れている。かけられている毛布から除く手足は、枯れ木の様にやせ細り、青白く、そして僅かも動くことはなかった。

 彼―牧島陽介―は十年余り前、事故で家族と首から下の自由一切を失っているのだ。


「……武術家の先生、ね……。自力じゃベッドから出ることも出来ないのにな」


 そうひとりごちてぼんやりと窓の外を眺めていると、ノックと共に若い看護士が部屋にカートを押して入ってきた。


「牧島さん、夕食のお時間ですよ。また、ゲームしてたんですか?」


 少し呆れ顔でそう言われると、皮肉げな笑顔で返す青年。


「だって他にやる事ないんです。”Legends”の中でなら、現実以上に自由に動けるんですよ。行きたい所に行って、やりたいことが出来る……」


 言って窓の外を見る男に対し看護士は、困ったような顔で諭すようにいう。


「もう少し動いたほうがよろしいって、先生もおっしゃってたでしょう。車椅子で中庭に出たりしましょう」


 横でてきぱきと病院食の用意を始める看護士を意識して視界の外に押し出したまま、青年は心の中でつぶやいた。


(動くんじゃなくて、動かしてもらってるだけじゃないか……)




 突然に振り出した豪雨の音を聞きながら、夜の病室でひとり陽介は自分の世界に没入する。


「ID00694FRAKS接続。Legends起動。ダイブイン」


 その言葉とともにバイザーが目深に降り、脳内のマイクロマシンが機能を発揮し、電脳空間に表層意識をアップロードする。

 陽介が没頭しているゲーム”Legends”は量子コンピューターを利用し極限まで現実感を再現した、全感覚投入型のロールプレイングゲームだ。 もうひとつの世界と言える程の完成度の高さで世界中で人気を博し、最もプレイされているオンラインゲームのひとつと呼ばれている。


 数秒の後、陽介の意識は”ディアス”の肉体―サーバー上にある仮想の―に収まっていた。紅い癖のあるオールバック、黄金に輝く瞳、額から角が生えたその容貌は力強く男性的で、陽介を知る者であっても類似性を認めることは出来ないだろう。

 引き締まった肉体に編んだ鎖と皮革で作られた皮鎧をまとい、巨大な斧刃を備える槍をひゅうと手の中で回すその姿はまるで伝説の中の英雄の様で、病床に縛り付けられた青年の面影は何処にもない。その腕前と数々の戦果によって、彼は”Legends”の中でも三本の指に入る戦士として名を馳せているのだ。


「やっぱり、俺の居場所はここにしかない」


 そう呟くと、男は軽やかな足取りで歩き出した。


 今夜もいつものように、対人戦エリアで鎬を削り勇名をはせ、満足して眠りにつくのだろう。陽介はそのことを疑いもしていなかった。


 だが翌日、牧島陽介はベッドの上で眠る様に亡くなっているのが発見され……メディア上を少し賑わせた後、忘れ去られていった。




 この世界では。

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