第9話 受験生からの依頼その五 現役生がまぶしい
今日来た依頼は切実なものだった。
『浪人生になってから、現役生がまぶしくて仕方ありません。なんとかしてください』という依頼だ。
「そういうものなんですか?」
とまだ一浪のこすずちゃんが首をかしげる。三浪の真穂さんも小首をかしげていたが、気にしないことにする。
うんうんと頷いているのはおたぬき様だけだった。
そんな彼女に静夜は質問を投げかける。
「この依頼の気持ちは分からなくもないが、なんとかしろって言われても、どうするんだ?」
「それを考えるのが我々の役目だろうに」
「つまりおまえも特に策が思いついてるわけじゃないんだな?」
「アイデアを募集する!」
元気よくおたぬき様が声をかける。
しばらくして真穂さんが手を挙げた。
「えーっと、つまり浪人生でも輝ければいいと思うのよー」
「どうすれば輝けるのだ?」
「コンテストはどうかしら」
「模試なら毎月のようにやってますよ?」
こすずちゃんがそう言ってくるが、真穂さんは首を横に振った。
「そういうのじゃなくて、趣味系の楽しめるものでコンテストをするの。それで優勝した人を表彰するとかして、いっぱい褒めてあげるとかどうかしら」
「おお! 良さそうではないか!」
おたぬき様は乗り気だったが、一方で静夜は渋い顔を返す。
ごそごそと真穂さんが下の方を漁ったかと思うと、取り出したのはトランプだった。
「たとえばこのトランプを使って、タワーを作るとか。そういった簡単なコンテストでもいいと思うのよー」
「なるほどのう。して真穂はそのコンテストに参加するのか?」
「わたし? 苦手だからやめておくわー」
「あたし、三段くらいならタワーを作れますよ!」
こすずちゃんが明るくそう言いながら、トランプを手にする。
不思議そうにおたぬき様が首をかしげた。
「だが真穂、おぬし以前に五段タワーを作っていたではないか?」
「はいー、それくらいしか作れなくて」
こすずちゃんが作り始めていたタワーをぐしゃっとさせ、顔を机に突っ伏させる。
あたりを静寂が包む。
ごほん、とせき払いをしてから静夜はフォローを入れておく。
「いや、俺なんて四段くらいしか作れないし。三段でもすごいって」
こすずちゃんからの返事はなかった。
「ところで、トランプと言えばだが」
おたぬき様が話を変えてくる。
「なんだ?」
「やはりトランプカッターが楽しいではないか。危ないが、楽しい」
そう言いつつ、おたぬき様はトランプを投げる素振りをする。
「カードが傷むからなぁ、俺はしたことない」
「いや、カードも使われて本望に違いない」
はたして切断という用途に使われて喜ぶマゾなトランプがいるのだろうかと静夜は疑問に思ったが、おたぬき様が上機嫌にしているので反論はしないでおく。
真穂さんがパンと手を叩く。
「じゃあ今度、トランプカッター大会をしましょうー」
「おお! それは楽しみだ!」
「いや、なんていうか……」
「なんじゃ静夜、不満でもあるのか?」
静夜は懸念していたことを伝える。
「浪人生が遊びの大会に参加してる余裕なんてあるのか? 勉強で手一杯だろ」
「静夜は勉強で日々手一杯なのか?」
「よし、大会するか」
静夜も賛成し、大会はおこなわれることになった。
後日、職員協力のもと満を持して大会は開催されたが、意外に好評を博した。いい息抜きとなったらしい。
『次は的を投票で決めませんか、嫌いな教師が居るんですよ!』という声が一部から上がったが、静夜たちは聞かなかったことにした。