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第5話 受験生からの依頼その三 眠たい


「なんだこの依頼は!」


 おたぬき様が声を荒げる。

 今日久しぶりに届いた依頼は、『授業中に眠たいのでなんとかして』というものだった。


 うなり声を上げるおたぬき様に、こすずちゃんが声をかける。

「よかったじゃないですか。それだけおたぬき様の力量が過小評価されているっていう証ですよ」

「それのどこが良いのだ?」

「一発逆転を狙うなら今がチャンスというわけです」

「おお!」

 おたぬき様がたぬき耳をぴこんと立てる。ものは言い様だなぁと静夜は素直に感心した。


 真穂さんが小さく手を叩く。


「枕をプレゼントするのはどうかしら?」

「睡眠薬なら持ってきてますよ」

 こすずちゃんが合いの手を入れるが、静夜は机をコンコンと軽く叩いて注目を集める。

「この場合、依頼者は起きたいから眠いのをなんとかしてくれって話だろ? 寝させてどうする」

「でも寝る子は育つとも言いますし」

「寝てても縦じゃなくて横に育つだけだろ」

「じゃあ横に寝れば、縦に育つので何の問題もないですね」

「……つまり斜めに寝れば、斜めに育つのか?」

 静夜が頭を混乱させている一方、おたぬき様は依頼書を折りたたんで紙飛行機を作り出した。

 解決する気は一切ないらしい。


「もっとこう、私にふさわしい依頼がくればいいのにのう」


「たとえばなんだ?」

「『世界を救ってくれ』とか、『あの子の命を助けたい』とか、『きつねうどんを腹一杯食べたい』とか」

「お腹空いてるのか?」

「おお。さすが静夜、よく見抜いた」

 おたぬき様が嬉しそうな表情をしながら、完成させた紙飛行機をすっと飛ばす。紙飛行機はふわっと飛ぶと、解決済みのボックスの上へ静かに着地した。


 ごそごそと真穂さんが下の方で何かを漁りながら口を開いた。

「でも、授業中ってどうしても眠くなっちゃうわよねー。こすずちゃん、何かいいアイデアはないかしら?」

「そうですね。手軽なものとしては、眠くなったら、鉛筆で自分の手のひらを刺すとか」

「痛そうねー」

「じゃあ前の席の人の背中を刺しましょう。スリルで目が覚めるはずです」

「そんな方法もあるのね。今度クラスのみんなに広めてみるわー」

 静夜の脳裏に阿鼻叫喚の地獄絵図に陥るクラスの光景が容易に浮かんだ。


 と、何かひらめいたのか、おたぬき様がパンッと手を叩いた。


「わかった! 私の妖術を使い、この学校で寝れば死ぬようにすればどうだろうか!」

「なるほど。そうすれば眠る人は居なくなりそうですね」

 こすずちゃんは納得しているようだったが、静夜と真穂さんは渋い顔になる。静夜が口を開こうとすると、それより先に真穂さんが言葉を発した。

「でも、仮眠を取る先生がいるかもしれないし、みんな死なすのはかわいそうだと思わないかしら?」

「ふむ。ならば生徒だけに寝たら死ぬ呪いをかければいいんだな」

「そうね」

 真穂さんが納得してしまったのか笑顔で頷いている。


 静夜はバンバンと机を叩く。あきらかにツッコミ役が足りない。

 自分一人でどこまで対処できるか分からなかったが、このままでは予備校がしかばねの山になるため、静夜は説得に乗り出す。

「おたぬき様、よく考えろ。この校舎でもし死人が出れば、どうなると思う?」

「臭いがくさいか」

「そういう問題じゃない。ここで死んだら、死体の処理に困るだろ? 職員の仕事を増やしてどうする?」

「むー。不平を言うなら、静夜から何か代替え案を出してくれ」

 そう言われても、静夜は何もアイデアが浮かばなかった。


 しばらく悩んだ後、ゆっくりと口を開く。

「ま、前の席の人を、鉛筆で刺すとか?」

「ふむ。まあよかろう。ではその案で決定!」

 結論が出た。真穂さんとこすずちゃんが拍手を送ってくる。


 こうして依頼は無事に解決した。

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