第41話 受験生からの依頼その二十一 緊張の糸が切れた
センター試験から数日後。
自己採点を終えた一同は数日ぶりにお狸部屋に集合した。暇なやつだけ来いとのおたぬき様からのメールでのお呼び出しに、全員が揃った。
おたぬき様がバンッとホワイトボードを叩いて注目を集める。
「センター試験はどうだった、おぬしら! 実力は発揮できたか!」
受験生を代表して静夜が答える。
「もちろん万全は尽くした。が、元からの実力不足でわりとひどい」
「まあ終わったことだ。忘れよ。それよりも二次試験へどれだけ集中力を持続させるかが問題だ」
おたぬき様が依頼書を机の上にはらりと載せた。
志野ちゃんが手に取って読み上げる。
「ええっと、今回の依頼は、『センター試験が終わり、緊張の糸が切れてしまった。なんとかしてほしい』ですね」
「おぬしらはどうだ? 一つの山を越え、やる気ががくっと落ちてはおらんか?」
こすずちゃんが即答する。
「最初からやる気がある前提で言わないでください。私や静夜さんみたいに惰性で動き続けているクズもいるんですよ!」
「ええい、開き直るとはたちが悪い。志野はどうだ?」
名前を呼ばれた志野ちゃんは、さっと依頼書で顔を隠してしまう。
「うう……。センターが思ったよりだめで、へこんでます」
「へこむのは胸だけにしておけ、いいか志野――」
「うう……!」
志野ちゃんが隣の席の真穂さんに泣きつく。よしよしと真穂さんは頭をなでてあげる。
ごほん、とせき払いを一つしてからおたぬき様が気を取り直して口を開く。
「真穂はどうだったんだ?」
「センター試験のときなら、わたしは家で寝てたわよー」
「うう……!」
今度はおたぬき様が誰かに泣きつこうとして、手頃な人が見つからずにあきらめた。
話が完全に脱線したのを感じた静夜は、依頼書を手に取り、話題を戻すことにする。
「どうすれば集中力を切らさずに勉強できるんだ? おたぬき様は何か知ってるか?」
「寝よ」
「シンプルな意見だな」
「受験生はどうしても睡眠時間を削る傾向にあるからのう。寝不足は集中力の欠落に直結する。あとは肌荒れか」
静夜は首を捻る。
「肌荒れなんてどうでもいいだろ?」
「おぬしはそうでも、女子への影響は少なくない。肌の荒れは心の荒れへと繋がっていく」
「そういうものなのか」
立ち上がったこすずちゃんが、自分のほおを指差しながら静夜に近寄ってくる。
「ほら見てくださいよ、静夜さん。あたしは睡眠だけはばっちりなおかげで、肌はぴちぴちですよ」
そう言いながらこすずちゃんは顔を寄せてくる。
静夜は極めてまじめな顔つきで言葉を返した。
「あんまり顔を近づけるな。キスするぞ」
「やれるものならやってみてくださいよ」
「……悪かった」
静夜は深々と頭を下げる。
「なんで素直に謝ってるんですか!? あたしへのキスが罰ゲームみたいな対応しないでください!」
「本当にすまなかった」
「ええい、今度静夜さんが昼寝してたら、隙を見てキスしてあげますから覚悟しておいてください」
こすずちゃんはそう言い残すと、顔を赤くしたまま部屋の外へと早足で出て行った。
その姿を見届けた静夜は、素直に反省する。
「さすがに怒らせたか。失敗だな」
おたぬき様がぽんと手を静夜の頭に載せてくる。
「おぬしが気にすることはない。あれはただの照れだ」
「照れ?」
「静夜、それで出願はどうするんだ? このまま第一希望の大学を目指すか?」
「ああ。どうせ散るなら派手に散りたい」
「散りゆく花は美しい。悔いのないよう、まあ、がんばれ」
ごしごしと荒くおたぬき様が頭をなでてくる。子ども扱いされているようにも感じたが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
二次試験まであとわずか。
決着のつくときが、確実に迫っていた。




