第39話 受験生からの依頼その二十 風邪をひかない
季節は巡り、いよいよ冬。
迫り来る試験。立ちはだかる難問。焦る受験生。変わらない委員会。特に欠席もなく集まる委員会の一同。出席率の高さを嘆くおたぬき様。
今回の依頼は、『風邪を引きたくない。何か効果的な方法を教えてほしい』というものだった。
おたぬき様が今日は座ったまま口を開く。彼女はマスクをしていた。
「さておぬしら、今回の件について、何か意見はないか?」
「それでいいんじゃないのか?」
と言いつつ静夜は彼女のマスクを指さす。
おたぬき様は別に風邪を引いているわけではない。もし万が一自分が感染していても、受験生である静夜たちに菌をうつさないよう、予防のためにマスクをしているそうだ。神様でも風邪は引くらしい。
当然といった感じでおたぬき様が頷く。
「もちろんマスクは効果的だ。だがより奇抜で斬新な意見を求む」
「はい!」
こすずちゃんが元気よく手を挙げる。
秋頃に引いた風邪を保持しようとしていた彼女だったが、その努力も無駄に終わり、むしろ最近は生き生きとしている。なんでも周りに暗い受験生が増えたため、ドエスの血が騒ぐそうだ。
「よしこすず、言ってみてくれ」
「風邪の菌はくしゃみや咳で飛散しますが、それ以外でも危険な行為があります。ずばりキスです。このシーズン、クリスマスだと浮かれてキスするカップルが増えやがるでしょうが、受験生には御法度です。受験生を恋人に持つ人は、相手のためを思ってこそ、今年はキスせず一人で静かに息を引き取ってください」
おたぬき様がこくこくと頷く。
「ふむ、いい意見だ。続けて誰かあるか?」
真穂さんが手を挙げる。
「あのー、素朴な疑問なんだけど、どうして風邪を引いてはいけないのかしら?」
「周りの受験生に迷惑がかかるだろうに」
「ああ、なるほどー。納得しました」
真穂さんが手を下げる。意見ではなかったらしい。
今度はおずおずと志野ちゃんが挙手する。
「志野、何かあるか?」
「ええっと、やっぱり栄養のある食べ物をとることが大事なのかなぁと」
「ふむ。具体的には何がよさそうだ? 豆腐か?」
志野ちゃんが近くの消しゴムをおたぬき様に投げつける。おたぬき様は「ははは」と笑いながらさっと回避した。
「静夜、ほかに何かあるか?」
「そういえばあれってどうなんだろうな、乾布摩擦。効果あるのか?」
「試せば良かろう」
その言葉に、みんなの視線が静夜に集まる。
「いやいやいや、そんなリスクがありそうなことをさせないでくれ。俺は受験生だぞ?」
「みんなそうですよ」
一同が頷く。明らかに一人ウソ吐きが混ざっているが、あえてそれはスルーして静夜は話を変える。
「アルコール消毒ってあるだろ? つまり同じ原理で、酒をたくさん飲めば風邪の菌を殺せないのか?」
おたぬき様が首を捻る。
「確かに酒の飲み過ぎで家計を殺すことならできるが、菌にはたして効果があるのかのう」
こすずちゃんも疑問を呈してくる。
「最近はお酒も高いですよ? どうせなら消毒薬を飲んだ方が効果がありそうじゃないですか?」
「たわけ、消毒液など有害だ。飲んだらどうなることか」
「試してみましょう」
みんなの視線が静夜に集まる。
「おう、上等だ。飲んでやるから持ってこい」
「あ、持ってきてますよ」
こすずちゃんがカバンから消毒薬を取り出し、静夜の前にどんと置いた。
静夜は両手で自分の顔を覆い、何も見なかったことにした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
依頼:風邪を引きたくない。何か効果的な方法を教えてほしい
回答:消毒液は飲めません。冗談でも、飲むなどと口にしないようにしましょう




