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第38話 読書

 いつものようにお狸部屋で静夜が本を読んでいると、志野ちゃんが声をかけてきた。


「静夜さんって、いつも何か読んでますね」

「そうだな、空気ならわりと読んでる方だ」

「どんなジャンルなんですか?」

 志野ちゃんが問いかけてくる。

 静夜は読んでいた本のカバーを取り、背表紙を見せた。

「いま読んでるのは推理ものだな。ファンタジーも読むし、エッセイとかもわりと好きだ」

「読書家なんですね」

「けど俺にも嫌いな本はある」

「参考書ですか?」

 志野ちゃんが柔らかい笑みを投げかけてくる。

 静夜は静かに頷きを返した。



 次の日の昼休み。

 静夜がお狸部屋で読書していると、真穂さんが声をかけてきた。


「静夜くんって、本当に本が好きねー」

「好きっていうのもあるけど、習慣みたいなもんだからなぁ」

「わたしと本なら、どちらが好きかしら?」

「……本を読んでる真穂さんが好きかな」

 答えをなんとかひねり出すと、真穂さんはくすくすと笑った。



 次の日の夕方ごろ。

 委員会の活動が始まるまで静夜が本を読んでいると、こすずちゃんが声をかけてきた。


「真穂さんから聞きましたよ。静夜さんって、読書している女性にだけ過激に萌えるそうですね」

「何の話だ?」

 静夜が読んでいた本をこすずちゃんが取り上げる。

「じゃあ今からわたしが本を読んでみるので、試しに萌えてみてください」

「燃やせばいいのか?」

「はい、読み出しましたよ。さあ、早く萌えて!」

 さあ、と言われてもどうすればいいのか静夜には分からなかったが、とりあえずそのあたりにマッチが落ちていないか探してみる。


 あった。


 マッチに火をつける。

 こすずちゃんがきょとんとした表情になる。

「それでまさか、『俺の萌えは火のように燃えているぜ』というアピールのつもりですか? 苦肉の策ですか?」

「じゃあどうすれば、こすずちゃんの期待に応えられたんだ?」

「……特に考えてませんでしたが、そうですね、窓から飛び降りてくれたら感心はします」

 火を挟んでお互いが無言で向き合っていると、横からやってきたおたぬき様が、ハリセンで二人の頭を叩いた。



 次の日の夜。

 珍しく静夜が遅い時間までお狸部屋に残って本を読んでいると、おたぬき様が受験生のためのお守りを延々と作り続けながら声をかけてきた。

「帰らなくて大丈夫なのか?」

「時間的には大丈夫だ。勉学的にはみじんも大丈夫じゃない」

「おぬしもなんだかんだ言いつつ、家では自習をしておるようだしのう。さほど心配はしておらん」

 昨日ゲーセンで取ってきたばかりの扇子でおたぬき様は静夜のことをぱたぱたとあおいでくる。

 そよ風を感じながら読書を続けていると、再びおたぬき様が話しかけてきた。

「熱中して読んでおるようだが、それほど面白いものなのか?」

「ああ、かなりいい」

「私と遊ぶよりも本を読む方がいいのか?」

「ちょっとだけ待ってくれ、もうすぐ切りがいいところだ」

「もしここで私が裸になったとしても、おぬしは本の方に夢中か?」

「いや、通報で忙しくなるだろうな」

「絶世の美女がおったと通報するのか?」

「本はいい。静かだ。だがおまえはもっといい。特に静かなところが気に入っている」

 静夜がそう言うと、おたぬき様はきょとんとした表情になり、それから愉快そうに小さく笑う。


 おたぬき様はその後は口を閉ざし、せっせとお守りを作り続けた。

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