第35話 受験生からの依頼その十八 面接対策
いよいよ推薦入試が始まった。
一般的に推薦入試は現役生のためのものだが、中には浪人生を受け付けている大学も存在している。
そのためか、今日届いた依頼は面接に関するものだった。だが委員会のメンバーの中で推薦入試を利用した者はおらず、面接についてはみなあまり勝手が分かっていなかった。
そこで真穂さんの、
「面接を体感してみましょうー」
という提案を採用し、みなで面接を再現することにした。
面接官役はおたぬき様と真穂さん。
受験生役を静夜と志野ちゃんが、そして面接中に乱入してくる暴漢役をこすずちゃんが務めることになった。
静夜と志野ちゃんはいったん部屋の外に出ている。
それからしばらく待ってから、ドアをコンコンとノックする。するとさっそく駄目出しが飛んできた。
「ノックは三回か四回がマナーだ。二回はトイレを意味するため不適! 減点!」
「手厳しいな」
「愚痴をこぼした! 減点! あと静夜は日頃のおこないが悪い! 減点!」
静夜はドアを蹴破って入る。
中に入ると、ごまかすように面接官であるおたぬき様が笑っていた。
「し、失礼しますっ」
丁寧に志野ちゃんが頭を下げる。ならって静夜もおじぎをする。
「少し面白い感じで座ってくれないかしら」
と真穂さんが注文を付けてきたが、それを無視して静夜は普通に着席する。隣で志野ちゃんが戸惑うようにおどおどしていたが、やがて悩んだ末に彼女も平凡にイスに腰掛けた。
おたぬき様がえらそうな感じを出しつつ口を開く。
「まあ楽にしたまえ。安心しなさい、おぬしたちを取って食おうなどとは少ししか思っておらん」
「好きな花は何かしら? まずは志野ちゃん」
何の前振りもなく真穂さんがいきなり尋ねてくる。
予想外だったらしく戸惑う志野ちゃんに代わり、静夜が返事を口にする。
「カリフラワーとか好きだな」
「じゃあかりんとうはどうかしら?」
「いや、そっちはちょっと」
「なら減点ねー」
真穂さんが審査用紙に何かを記入していく。それが書き終わると、再び志野ちゃんに質問を投げかける。
「好きな花は何かしら?」
だいぶ悩んでから志野ちゃんが答える。
「え、ええっと、かりんとうです!」
「そう。なら高得点にしましょう」
真穂さんが笑顔で頷いている。
扇子でおたぬき様がびしっと静夜を指してきた。
「ずばり問おう。なぜこの大学を希望したのか、その本音を聞きたい。正直に言ってみたまえ」
「ニュースで報じられたように金の管理がザルなことが分かったため、ここなら好き放題使い込めると判断させてもらった」
「ふむ。正直に話す誠実さはあり、と。次、志野」
「え、えっと……! す、好きな人がここを目指していたので、追いかけようと思って!」
「ほう、一途か。なかなかよろしい」
何かをメモしてから、おたぬき様が言葉を続ける。
「では次の質問は、なかなか難しいと思うが頑張って答えてくれたまえ」
「好きなパンは何かしら?」
空気を読まずに真穂さんが質問を投げかけてくる。特に考えずに静夜はすぐ返答する。
「メロンパンが好きかな」
「そう。駄目ね」
真穂さんが用紙に大きなバツ印を書く。
はいと手を挙げながら志野ちゃんも答えを口にする。
「か、かりんとうとか好きです!」
「そうなの。なら合格にしましょう」
「あ、ありがとうございます!」
志野ちゃんがおじぎをして部屋から出て行く。
一人残された静夜は、しばらく間を置いてから口を開いた。
「俺も実は、かりんとうが好きなんだ」
「あら、そうなの。なら減点ねー」
真穂さんは審査用紙を丁寧に折りたたんでから、近くのゴミ箱に捨てた。これが圧迫面接かと静夜は震える。
そんな光景を横で見ていたこすずちゃんが、おもむろに口を開く。
「というか、あたしはいつ登場したらいいんですか?」
「ちなみにこすずちゃんは、かりんとうは好きかしら?」
真穂さんがそんなことを尋ねてくる。顔をしかめながらこすずちゃんは答えた。
「あたし、かりんとうは大嫌いなんですよね」
「あら、そう。なら一生、出番はないわー」
笑顔でそう言ってのける真穂さんの隣で、おたぬき様は腹を抱えて笑っていた。




