第33話 受験生からの依頼その十七 センター試験対策
いよいよ受験生たちの首を真綿で絞める看板が、予備校の玄関に導入された。
『センター試験まであと 100日』とカウントダウンをおこなう看板だ。
毎日1ずつ減っていくその所業は、数々の受験生の胃を痛めつけることになる。
それに合わせて、おたぬき救済委員会に届く依頼もセンター試験に関するものが多くなってきた。
基本的に成績や勉強法に関する依頼は、おたぬき様は教職員に回している。
だが一方で、彼らが教えてくれないだろう些細なことや、くだらないことに真剣に答えようとするのが、この時期の委員会の仕事になってくる。
おたぬき様が今回の議題をホワイトボードに書き記していく。
『センター試験という名称が怖いので何かほんわかしたものに言い換えてほしい』
『俺、センター試験が無事に終わったら、ずっと好きだったあの子に告白するんだ』
『センター試験が何なのか分からないので教えてほしい』
そのほかにも雑多な依頼が書き連ねられていく。
「はい、発言いいですか!」
まだ書いている途中だったが、こすずちゃんが手を挙げる。おたぬき様は手を止めて振り返った。
「なんだこすず?」
「それらの依頼書を燃やすのが一番手っ取り早いと思います」
「たわけ、燃やせば火災警報器に怒られるだろうが」
「じゃあ埋めましょう。というかセンター試験自体を埋めてやりたい」
こすずちゃんが苦悶の表情を浮かべながら机をバンバンと叩く。静夜も同意見だったため、同じように机をバンバン叩いていたらおたぬき様に怒られた。
「静かにせい! おぬしらはすでにセンター試験は経験済みだろうに。何をそれほど動揺する?」
こすずちゃんが『うー』とうなり声を上げていると、志野ちゃんがおずおずと口を開いた。
「で、でも、気持ちはわかります。わたしも一度受けたことはありますけど、それでも、やっぱり不安に感じちゃって」
「少しは真穂を見習え。見ろ、いま真穂が読んでいるのは参考書ではなく、バイトの求人募集だ」
真穂さんがあらあらと笑みを浮かべる。
本当にそれを見習っていいんだろうか。
隣にいる志野ちゃんを揺さぶりながら、こすずちゃんが文句を言ってくる。
「その真穂さんに触発されて、最近、志野ちーがバイトを始めたんですけど」
「おう……」
さすがにおたぬき様も沈痛な面持ちになる。だが一方で当人の志野ちゃんはと言うと、なぜかどこか照れたように笑みを浮かべていた。
持っていたマジックペンをくるくると回しながら、おたぬき様が目をそらしつつ発言する。
「まあ、なんにせよ、センター試験が近づいておる。勉強の方は各自できっと、おそらく、たぶん、あわよくばしているだろうから私の方からは何も言わないが。別のことで伝えておくことがある」
「なんだ?」
びしっとおたぬき様が一人一人を指さす。
「おぬしら、勉強にかまけて私をないがしろにしないように! 寂しいと私は死ぬぞ!」
「俺たちがおまえをないがしろにしてまで勉強すると思うのか? 片腹痛い」
その言葉にこすずちゃんも力強く頷く。
おたぬき様は感動した表情になる。
「おぬしら、そこまで私のことを……!」
「来年度もよろしく頼む」
「はっはっはっ、面白い冗談だ」
そう言いつつ、おたぬき様の笑みはどこか引きつっていた。




