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第31話 受験生からの依頼その十六 音楽

 今日届いたのは依頼というよりは、質問だった。

 今回はおたぬき様ではなく、志野ちゃんが書記役としてホワイトボードに議題を書いていく。

『勉強中に音楽をかけてもいいのか?』という議題だ。


 どこから持ってきたのか、おたぬき様がハリセンで机を力強く叩く。

「よし、さっそく意見を聞かせてくれ! ちなみに、おぬしらは勉強しているときに音楽は聞いておるのか?」

 こすずちゃんが自信を持って答える。

「そもそも勉強してません!」

「……これは、真穂コースか」

 おたぬき様が渋い顔になる。


 と、名前の挙がった真穂さんが挙手してから口を開く。


「わたしは聞きながら勉強してるわよー」

「おお、真穂! 勉強しておるのか!」

 おたぬき様が嬉しそうな表情になる。

「はいー、最近はちょっとクリアできないダンジョンがあって、そこの攻略を勉強してるのよ」

「……何の話だ?」

「ゲームー」

 おたぬき様は持っていたハリセンで静夜のことを叩いた。そろそろ飛んでくるだろうなと身構えていたため、静夜の受けたダメージは微々たるものだった。

「一応言っておくが、なぜ俺を叩く?」

「静夜はどうなのか聞かせてほしい」

「俺か? 今はあまり聞かないな。どうしても集中できなくなる」

 宅浪時代によく音楽を聞きながら勉強していたが、すぐ音楽の方に気を注いでしまい、自分には合わないと静夜は自覚していた。


「志野はどうだ?」


 おたぬき様が話を振ると、びくっと志野ちゃんは反応してから、おそるおそると言った感じで発言する。

「え、えっと、英語の勉強になるかなぁと思って、洋楽を聞くようにしてます……」

「ふむ。効果はどうだ?」

「何度も聞いたおかげで、最近は自分がアメリカ人だったんじゃないかと思えてきました」

 志野ちゃんがにっこりと笑みを浮かべる。おたぬき様はハリセンで静夜を叩いた。


 気を取り直しておたぬき様が大きな声を出す。


「人それぞれなのはわかったが、私としては音楽はありだと思う」

「理由は?」

「記憶とは何も視覚的なものだけではない。聴覚と連動して記憶することで、より鮮明に物事を覚え、思い出すことができるのではなかろうか。と、この受験雑誌に書かれておる」

 ごそごそとおたぬき様がおもちゃ箱を漁り、中から雑誌を取り出して机に並べる。

「受け売りか」

「だがどうにも理解できん。誰かわかりやすく説明してくれんか」

「いいでしょう、あたしがお答えします」

 すっとこすずちゃんが立ち上がった。みなの視線が集まる。

 こすずちゃんが両手を広げながら口を開く。


「たとえば鎖がまを振り回しながら裸で静夜さんがこの部屋に入ってきたとします。

 そしてそのときにある曲が流れていたとしましょう。

 そんなことが数度続けば、その後は曲が流れるだけで『お、これは静夜さんが裸で鎖がまを振り回しながら登場するな』と自然と身構えることができます。

 これを『パブロフの犬』、あるいは『静夜の裸』と言います」


「ほう。それで?」


「よって『静夜の裸』の効果により、勉強中に聞いた音楽と同じものを試験時に聞くことで、勉強したことを鮮明に思い出すことが可能というわけです」

「なるほどのう。言いたいことは分かったが、ただ一つ気になるのは、試験中に音楽を聞くことはできるのか?」

「無理ですね。よってこの『静夜の裸』はまったくの無価値です」

 その言葉に静夜は反論する。


「実際やってみないとわからないだろ。試しに俺が鎖がまを振り回しながら脱いで――」


 まだ話している途中だったが、顔面へのハリセンの殴打が静夜の言葉を遮った。

 

 

          ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 

 依頼:勉強中に音楽をかけてもいいのか?

 

 回答:脱がない

 

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