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第29話 受験生からの依頼その十五 現役生の追い上げがこわい

「ふむ。浪人生ならではの依頼だのう」

 届いた依頼書を片手に、おたぬき様がホワイトボードに議題を書いていく。今回の依頼は、『現役生の追い上げがこわい』というものだった。


 静夜と真穂さんは納得したようにしていたが、一方でこすずちゃんと志野ちゃんは小首をかしげていた。

「いまいち分からないんですが、どういうことです?」

 こすずちゃんの問いに、静夜は間を置いてから答える。

「夏が終われば、否応なしに実感する。浪人生の天下は春だけだ」


 夏以降になると、あっという間に現役生の成績が伸びてくる。

 静夜も去年、春頃は模試でも中位をキープしていたが、夏以降、一気に迫ってきた現役生にあっという間に抜かれてしまった。迫り来る現役生の猛攻に、浪人生はプレッシャーを感じずにはいられない。

 おたぬき様が依頼書をぺらぺら動かしながら口を開く。

「そのあたりは真穂が一番実感していると思うが、何か対策のようなものはあるのか?」

「そういうときは、気分だけでも自分を現役生だと思うのがいいと思うわー」

「ふむ。では具体的にはどうすればいい?」

「やっぱり形から入りましょう」



 次の日。なぜかお狸部屋に集まったメンバーは、各自が高校のときに愛用していた制服を着用した姿になっていた。


「おお。何か新鮮だのう」


 おたぬき様が満足そうに頷いている。

 絞めていたネクタイをゆるめながら、静夜は一同に視線を向ける。

 こすずちゃんと志野ちゃんは去年まで着ていたということもあって、さほど違和感なくブレザーを着用しているようだった。二人とも同じ高校だったのは本当だったらしく、一緒の制服を着用している。

「何か少し前のことだったのに、懐かしいですね」

 どこか嬉しそうにしている志野ちゃんとは対照的に、こすずちゃんは不満げな表情をしている。どうかしたのかと静夜が尋ねると、こすずちゃんは険しい顔つきをして答えてくる。

「服のサイズがきついんですよ。……おかしいです、これでも毎晩筋トレしてるのに」

「運動する以上にここでお菓子を食べてるんじゃないのか?」

「冷静に分析しないでください、蹴りますよ!」

 と言いつつこすずちゃんは静夜を蹴ってきた。早い。

 そして一人だけ様子が違ったのは、真穂さんだ。

 普段から大人の雰囲気を出している彼女は、今はセーラー服姿だったが、明らかにコスプレのようで浮いている。けれど本人はうれしそうににこにこしていた。

 彼女は静夜の元に歩み寄ってくると、静夜の耳元でささやくように言った。


「ねえ静夜くん。わたしのこと、先輩って呼んでみてくれませんか?」

「せ、先輩?」

「もう一度ー」

「先輩」

「なにかしら、静夜」

 真穂さんがぐっと顔を近づけてくる。気恥ずかしくなった静夜が顔をそらすと、くすく

すと真穂さんが笑った。


 ちらっと横目で見ると、おたぬき様がホワイトボードに『静夜は先輩萌え』と余計なことを書いていた。


 と、こすずちゃんがびしっと真穂さんを指さす。

「真穂さん、まさかその格好で外を歩いてきたんですか?」

「ええ、そうよー」

「犯罪です! なんですかそのはちきれそうな大きな胸は! 高校のときからまだ育ってるっていうんですか!」

「寝る子は育つのよー」

「え、寝てて育ったんですか? どのくらい寝てるんです?」

「授業中たくさん寝れば、きっとこすずちゃんも育つわよー」

「あたしも寝てる方だとは思うんですが、まだ寝たりないんですかね。どのくらい寝ればいいのか教えてもらえませんか?」

 こすずちゃんが真穂さんに近寄ろうとするが、そんな彼女を静夜と志野ちゃんが引き留める。

「やめておけ、闇のささやきに耳を貸してはいけない」

「と、とめないでくさださい! たとえイバラの道だとはわかっていても、ときには進む勇気が必要なんです!」

「俺も授業中よく寝てるが、寝てて増すのは成績じゃなく体脂肪だ」

「あー、おぬしら、ちょっといいか」


 おたぬき様がホワイトボードをノックして注目を集める。みなの視線が集まると、おたぬき様は言葉を続けた。


「これで現役生のころの気分を多少は感じられたとは思うが、どうだ? 何か良かったのか?」

 真穂さんが挙手する。

「おたぬき様、わたしの予備を持ってきたので、セーラー服に着替えてみない?」

「おお! いいのか!」

 おたぬき様が持っていたペンと依頼書を投げ捨てる。


 それからおたぬき様の着せ替えショーが始まった。

 静夜は今日も依頼は解決しなかったなぁと頭の片隅で思いつつ、おたぬき様の見慣れぬ服装に感心するのだった。

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