第22話 夏期講習
「そういや夏期講習の申し込み、もうしたか?」
こすずちゃんがえへんと胸を張る。
「するわけないじゃないですか!」
静夜は読んでいたコラム集を置き、こすずちゃんにまじめな感じで諭すように言う。
「面倒なのは分かるが、夏期講習は受けておいた方がいいぞ。中身が濃い」
「どうせ寝るので中身とかわりとどうでもいいんですけど」
「いや、たとえ寝てても受けただけで学力が上がった錯覚を抱けるぞ」
「そうなんですか?」
真穂さんもうんうんと頷いてから口を開く。
「日頃の授業が土台作りなら、夏期講習はリフォームみたいなものだから」
「……」
こすずちゃんが助けを求めるような目で静夜を見てくる。静夜にも真穂さんが何を言いたかったのかはよく分からなかったが、なんとなく雰囲気で感じ取っておく。
「おたぬき様からも言ってやってくれ」
そう言っておたぬき様の方へ視線を向けると、彼女は持っていたアイスをびしっとこすずちゃんへ向けた。
「こすずよ、現役生のころの夏は何をしていた?」
「遊んでました」
「そして結果は?」
「浪人しました」
「つまりそこから導き出される結論は?」
「もっと悔いなく遊んでおけ?」
「うむ」
静夜は遠慮なくおたぬき様のほおをつねっておく。おたぬき様が不服そうにうなり声を上げてくる。
「うむ、じゃねえよ。賛同してどうする」
「だが夏は暑い。勉強なら涼しくなった秋からすればいいだろうに」
「同じようなことを言ってたやつが受験に失敗したんだが」
「誰の話だ?」
「俺だ」
「言ってて悲しくないか?」
おたぬき様が遠慮なく同情めいた視線を向けてくる。静夜は目をそらした。
はむっとアイスを口に含んで、おたぬき様が行儀悪く話す。
「冗談はさておき、こすずよ、夏は勉強以外に何かしたいことでもあるのか?」
「そう、そうなんですよ! 海に行きたいです!」
「受験という名の大海原を泳いでいるだけではまだ物足りぬか?」
「青春ですよ!」
バンバンとこすずちゃんが机を叩く。こすずちゃんの口から青春という言葉が出てくるとは、静夜は何か少し意外に感じた。
静夜も同意を返しておく。
「海で青春か、いいな」
「ですよね! あたりでいちゃついてるカップルを手当たり次第に海へ突き落としたいですよね! 他人の青春をぶち壊したいですよね!」
「真穂さんは海に行ってみたいか?」
話を振ると、真穂さんはにこにこしながら何度も頷いた。
「いいわねー、海。わたし好きなのよ、お刺身」
「おたぬき様はどうだ?」
「私か? うーむ、できれば遠慮したい。水着姿が恥ずかしいからのう」
「そうなのか?」
こすずちゃんがぱっと顔を輝かせる。
「気にしなくていいですよ、おたぬき様! たとえちんちくりんのボディでも、きっといつか日の目を見ることがあるかもしれませんし、たとえちんちくりんでも! スリーサイズ教えてください、笑い飛ばしますので! 私が勝てる相手がやっと見つかりました!」
こすずちゃんが嬉しそうにおたぬき様へ駆け寄る。
おたぬき様はしばらく迷うにしていたが、やがてぼそぼそと静夜に聞こえないよう小声でこすずちゃんに伝える。
それを聞いたこすずちゃんは、ゆっくりとひざから崩れ落ちてその場に倒れ、息絶えた。




