第20話 ゲリラファイアー
「うー、びしょびしょですよ」
コンビニにお菓子を買いにいっていたこすずちゃんが、びしょ濡れになってお狸部屋へ帰ってきた。
「あらあら」
真穂さんが歩み寄り、タオルでこすずちゃんの体を拭いていく。
こすずちゃんはまるで犬のようにぶるっと体を震わせて雨水をはじいた。
「傘はなかったのか?」
「昨日傘で遊んでたときに壊しました」
「小学生か」
「なお壊したのは静夜さんです」
「本当に申し訳なかった。つい力が入った」
深く頭を下げる。
ちらっと窓から外に視線を向けると、雨脚はかなり強いものだった。
「ゲリラ豪雨か」
「ドライヤーってありません?」
「さすがにないだろ」
周囲に目をやるが、やはりそんなものは見当たらなかった。
と、おたぬき様と目が合う。彼女はえへんと胸を張った。
「ドライヤーなぞないが、私がいるではないか! 私の妖術にかかれば、すぐさま乾かしてみせようぞ!」
「こすず、逃げろ。燃やされるぞ」
本気でこすずちゃんが逃げようとすると、すぐにおたぬき様から叱責が飛んでくる。
「たわけ、私がそんなあほなことをするわけなかろうに」
「そうか。校舎を燃やしたやつがいたと思ったんだが、気のせいだったか」
「そんな些細なことより、こすずよ、こっちに来い」
おたぬき様が手招きするが、こすずちゃんは警戒したまま動こうとしない。しばらくして、あきらめたおたぬき様が自分から近づいていく。
こすずちゃんがじりじりと下がる。
「こら、逃げるな」
「わかりました。やられる前にやればいいんですね」
「こすずよ、服を脱いで私に預けろ。すぐ乾かしてみせる」
「……ここで脱げと?」
「外の方がいいのか?」
「違います! そうじゃなくて、ここだと」
こすずちゃんが気恥ずかしそうにじっと静夜の方を見てくる。彼女の言いたいことが分かった静夜は、ゆっくりと頷く。
「俺が耳をふさいでおけばいいんだろ」
「目をふさいでください!」
「というか脱いでどうするんだ?」
おたぬき様が胸を張る。
「私に任せろ! 服だけを乾かす妖術がある」
「そんなピンポイントなものがあるのか」
「事務室に乾燥機が置いてある」
「なんて驚きの妖術だ」
適当に答えながら、静夜は部屋から出て行こうとする。そんな静夜の腕をこすずちゃんがつかんできた。
「どこ行くんですか?」
「いや、着替えるなら外から覗こうかと思ったんだが」
「どうせなら堂々と近くで見てくださいよ。その方が目をつぶしやすいです」
へくちょん、とこすずちゃんがくしゃみをする。
静夜はさっさと出て行くことにした。
「替えならおたぬき様にでも借りて、早く着替えろ」
「だから大丈夫ですって」
「俺をいたぶるのは好きにしてくれていいが、自分の体くらいいたわってやれ。分かったか?」
強い口調で静夜がそう言うと、こすずちゃんは少し迷うようにしていたが、やがて渋々といった様子で頭を縦に振る。その様子を見届けてから、静夜は小説を手に取って部屋の外に出た。
しばらく外で待っていると、中からおたぬき様の声が聞こえてきた。
「試しに私の妖術で」
「ぎにゃー!?」
かわいらしいこすずちゃんの叫び声が聞こえてくる。部屋の中が騒がしくなったかと思うと、すぐさま火災警報器が鳴り響く。
静夜はすべてを気のせいだと思うことにし、ゆっくりと小説を読み始めた。




