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第17話 受験生からの依頼その九 将来の目標が決まらない

 今日届いた依頼は、いたってまじめなものだった。


「ふむ。進路か」


 おたぬき様が依頼書に目を通してから、静かにつぶやく。

 全員席に着くと、おたぬき様がみんなを見渡しながら口を開いた。

「今回の依頼だが、『将来の目標が決まらなくて不安なのでなんとかしてほしい』というものだ。――して、おぬしらは何か目標はあるのか?」

「わたしはあるわよー」

 真穂さんがすぐに返事する。おたぬき様は嬉しそうに扇子で真穂さんを指す。

「おお! 聞かせてくれるか!」

「はいー。明日のお昼はちょっと歩いて、できたばかりのパン屋に行くのが目標ねー」

 おたぬき様が渋い顔になる。

「うーむ。できればもっと先の目標を聞きたいところなんだがのう。こすずは何かあるか?」


 少し間を置いてからこすずちゃんが返答する。


「そうですね。やはり高級マンションを買って、老後は悠々自適に暮らしたいところです」

「もっと手前の目標はないのか?」

「明日はラーメンが食べたいです」

「静夜、何かないか?」

 おたぬき様が話を静夜に振ってくる。

 静夜はしばらく考えてから無難な答えを返すことにした。

「まあやっぱり、合格っていう目標が一番だよな。それだけ目指しておけばいいんじゃないのか?」

 おたぬき様がまじめな顔つきになる。

「静夜よ、合格はゴールではない。ましてやスタートでさえない。長い人生において、合格などただの通過点だ。合格などに関係なく、先の目標が見えているなら、人は走り続けることができる」

「……そうだな」

 静夜はゆっくりと頷く。


 真穂さんがおたぬき様のおでこに手を当てている。熱でもあるんじゃないかと思っているようだ。

 おたぬき様が手を振り払ってうなる。

「熱などない!」

「おたぬき様は、何か目標はあるのー?」

 真穂さんの言葉におたぬき様は一瞬きょとんとした表情になったが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。

「もちろん、ないわけがなかろう!」

「聞かせてほしいわー」

「きつねうどんを腹一杯食べることが目標だ!」

「熱はなさそうねー」

 柔らかい笑みを浮かべる真穂さんとは対照的に、おたぬき様は釈然としないといった表情になる。

「目標……」

 缶ジュースを飲みながら、ぽつりとこすずちゃんが言葉を漏らす。おたぬき様がそれに反応した。

「こすず、無理して目標を見つける必要はないぞ。目標とは理論立てて探し出すものではない。ふとわき出てくる情熱のかたまりのようなものだ」

「情熱……」

「そう、熱い想いだ!」


 バンッとおたぬき様が机を強く叩き、勢いよく立ち上がって言葉を続ける。


「目標、それはわき上がる情熱、パッション! 怒りにも似た激情! 凍てつく寒さも、暗い衝動も、すべてをかき消す一筋の光!」

「やっぱり熱、あるよな」

「な、静夜! 失礼なことを言うな!」

 ごそごそと真穂さんが下の方を漁ったかと思うと、体温計を取り出した。ひったくるようにしておたぬき様が体温計を手に取る。

「見ておれ、すぐはかってやる!」


 それからしばらく待った後。


 おたぬき様が熱を出していることが判明した。

 なお本人は否認を続けている模様。

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