第16話 UFOキャッチャー
お狸部屋でみながそれぞれ本を読んだりゲームをしたりしていると、こすずちゃんがふと口を開いた。
「この前、ゲーセンでUFOキャッチャーをしたんですよ」
「ほう、一浪中のこすず、それがどうした?」
「でも全然取れなくて、何回もチャレンジしたんですけど。最近のUFOキャッチャーって必要経費が高くつきすぎませんか?」
「確かにのう、一浪中のこすずの言うとおりだ。私もこの扇子を取るのにいくらつぎ込んだことか」
おたぬき様が扇子を広げ、ばたばたと自分をあおぐ。今日の扇子には何かアニメのキャラらしきものが描かれていた。
パンっと真穂さんが手を打つ。
「じゃあ、ここでUFOキャッチャーの練習をしましょうー」
「設備があればそうしたいところですけど」
「静夜さんにアームになってもらいましょうー」
真穂さんが笑みを浮かべたまま静夜を見つめてくる。静夜は読んでいたエッセイを置き、一つ大きく息を吐く。
「で、俺に何をしろって?」
「アームになってください」
「それはあれか、『右、右!』とか指示されて、俺がそれに従って動けばいいのか?」
「はいー」
「それでこすずちゃんは、何か欲しかったものがあったのか?」
静夜は真穂さんの提案を無視することに決め、こすずちゃんに話を振る。
こすずちゃんはどこか気恥ずかしそうに答えた。
「好きなアニメのフィギュアがあったんですよ」
「よかった、剣山とか言われたらどうしようかと思ってた」
「マイ剣山ならもう持ってますよ。見ますか?」
「おたぬき様、それゲーセンで取ったやつだったんだな」
静夜はこすずちゃんの話を聞かなかったことに決め、おたぬき様に話を振る。
おたぬき様はどこか渋い表情をしていた。
「別にそこまで欲しかったわけではなかったんだが、ついむきになってしもうた」
「まあ取れたならよかっただろ」
「いくらつぎ込んだか聞きたいか?」
「遠慮する」
「もとが取れるまではこの扇子を使い込むつもりなんだが」
おたぬき様があおいでいた手を止める。扇子をよく見ると、すでに一部が破れていた。静夜は合掌する。
「今度何か欲しいのがあったら、俺に声をかけてくれ」
「おお、静夜、得意なのか?」
「俺のゴッドハンドにかかれば、取れない景品など八割ほどしかない」
「多いのう……」
慎重におたぬき様が扇子をまた動かし出すが、今度は『ベリッ』という何か嫌な音がした。
「わたし、ゲームセンターってほとんど行ったことがないのよねー」
真穂さんが話に加わってくる。
「プリント写真とか撮らなかったのか?」
「わたしが写真に写ると、どうしても何か良くないものが映り込んでしまって」
「良くないもの?」
「はいー。良くないものよ。たとえば静夜さんの肩に――あ、いえ、なんでもないわ」
そう言ってにこにこしている真穂さんに、静夜は深く尋ねないことにした。
おたぬき様が開き直って力強く扇子であおぐ。扇子からバリバリと鈍い音が聞こえてくる。何か愉快になったのか、おたぬき様が笑い出す。
「高くついた貴重な扇子をこのように雑に使うのも一興だ!」
静夜は自信を持って口を開く。
「まさに、あおげば尊し、っていう感じだな」
しばらく待ってみたが、誰からも反応はなかった。