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「で、お前はなんでついてきてんの?」
「慎治が歩くからだ」
なにそのお前のそばには常に俺が居るみたいなかっこいい表現。
「それに、よろしくて言ったでしょ」
「いつだよ」
「昨日の夜だ」
「覚えてない」
夢なのか現実なのかをさまよった結果、これは現実だと非現実を受け入れたばかりだというのに。
「ところで慎治」
「ん?」
「慎治はなぜそんな拾ったものを身に着けている? 地球人には恥ずかしさとかそういう類の感情がないのか?」
「いやいや、半裸はまずいだろ!」
「わからぬ……地球人わからぬ」
「一応追われてる身だぞ? 普通を装ってないと」
「なんだろう、地球人のことはあんまりわからないがそれは何かが違う気がする」
山を下り、さすがに半裸だとまた警察に職務質問を受ける可能性がある。
と、考えた俺は俺流スタイル、ゴミ袋をちぎってアレンジした、黒を基調としたダークなファッションを身にまとっている。
「てか、寝床とかどうすんの?」
「慎治の家がある」
「いやいや、宇宙船で寝ろよ!」
「いやよ」
「はぁ!? むりむり! なにがかなしくて異星人と同居せねばならんのだ!」
「あっ、でた。それ差別ってやつでしょ。地球人は他惑星の者には厳しくあたる、っと」
例のごとくメモ帳らしきものをとりだし、かきこむ。
「さっきから書いてるそれはなにに使うんだ?」
「レポート書くために決まってるでしょ」
「レポートとか書いてんの?」
「あたりまえでしょ、こちとら旅行じゃなく移住惑星を探すためにきてんの」
「だったらさ、地球の野生環境知るために……」
「外で寝ろと?」
「いや! 外で寝ろとは言ってない! 宇宙船で寝ればと」
「こんな、か弱い娘を一人で?」
「か、か弱いだと……」
確かに見た目はすごく華奢で、すごく整ったいかにも美人だが、六階から飛び降りて無傷、本人はジャンプと言い張っていたが滑空時間が長いことから、あれは飛んでいたと断定できるほどのジャンプ力。警察を圧倒する戦闘技術と男を片手一本で後ろに吹き飛ばす彼女がか弱いだと……。
「今、冷静に考えたけどか弱いじゃないわ」
「女なんだぞ?」
「もう、女とか男とかマンモスとかそんなの考えなしにお前はか弱くない。断言しよう」
「なぬ、女はか弱いと習ったのだが」
「習ったって、やっぱここに来る前に勉強とかするの?」
「勉強と言うか、私たちの星にも社会というのがあって、類似した惑星を探すべく、移住するにあたって目星はつけている」
「なるほど、だから電力やら基礎体温がどーのこーの述べれたわけだ」
「で、か弱いとはなんだ!」
すごい剣幕で迫られた。
咄嗟に俺はこう切り出す。
「お、おばあちゃん!!!」
確かにか弱かった。
「ん?」
「え、だからおばあちゃんだよ!」
「おばあちゃんとはなんだ」
「え! おばあちゃんしらねぇの!?」
「少なくとも習ってはない」
「まじか! 基礎体温とか待機電力とかよりおばあちゃん習うのが先だろ!」
「そんなにおばあちゃんは重要なのか!?」
「たいていの事はおばあちゃんに聞けば解決できる」
「ほぉ……」
メモを取りだし、いつでも記述できる準備をとったミラである。
「まず、さっきも言ったけどたいていの事はおばあちゃんに聞けば解決できる」
「なるほど、物知りな博学者のような存在か」
「自らが戦場で戦うときもあった」
「なんと、物知りな上に武術まで!?」
「あと料理がうまい」
「完璧じゃないか……」
もの凄い速さで、明らかに俺が言ったことより多く文字を書いている。
「今の文章そんなに書くこと多かったか?」
「自分なりの解析と今後おばあちゃんに出会った時の対処法などを考察したものを書いている」
「へぇ~、あとおばあちゃんはか弱い」
「それでか弱い!? 理解を超えているのだが……地球人にもそんなすごい奴がいるのだな」
「たくさんな」
「たくさんいるのか!!!!!」
ミラの執筆速度は恐ろしいくらいに早まる。
「なんせ何十年と生きているからな」
突如、ミラの腕が止まった。
「ばかな! 何十年だと!?」
「そうだな、平均して八十年くらいだ」
「八十!? 地球人は八十年も生きるのか!?」
「そのくらいじゃね? あんまり詳しいことはわかんねぇけど」
「ありえん。強靭すぎる……」
ミラは目を見開いたまま、下を向く。
「大丈夫か? めちゃくちゃ怖い感じの人になってるぞ!」
「あぁ……正直地球人を見くびっていた。というかおばあちゃんがすごすぎる」