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例のごとく木から木へと、なんとも慣れたように飛び移る。
もはや、この光景に慣れつつあった。
「お、あそこか」
ミラは指差す方へと再び飛んだ。
綺麗に着地するとミラは肩から俺を落とす。
予想だにしてなかった乱暴な行いに、俺は尻餅をついた。
「いてぇ!」
「あぁ、すまんな」
ミラの差し伸べた手に捕まり立ち上がる。そして目に入った光景に俺は驚愕した。
周囲一帯の地面が抉られていた。そしておそらくその犯人であろう球体がそこにあった。
「これが宇宙船?」
「そうだ」
「おお……想像してたのと違う」
人が一人、入れればいいかなくらいの小さな球体。
「これに乗って、何日かかったんだ? 地球まで」
「んーざっと、4日くらいかな」
「精神狂って発狂しそうだな」
「ちょっと待ってて」
ミラは宇宙船に向かい、ドアらしきものを開けて中に入った。
宇宙船のドアは閉まり、物音がしなくなった。
実際に宇宙船を見ての感想だが、意外と浮かばないものである。
期待しすぎてその期待に現実が下回っちゃった感じ。
「あたし肉じゃが得意なんだよねー!」やら、「毎日家で家族の料理を作ってるんだ!」なんて言う彼女の手料理を振る舞ってもらった時、味が薄い飯を出されてしまったあの感覚に似ている。
似ている……などとほざいてみたが俺には彼女なんていなかった。
虚しさと現実が同時に襲ってきて、ひどく落ち込んでしまった。
この原因は宇宙船にある! 宇宙船っつったらもっとでかくて、カッコいいものなのに。なんでだ! 球体じゃないか!!! こんな日曜大工で作れそうなものが彼女のいない現実を俺に見せてこの虚しさで苦しめるのか!!!
「なに虚しそうな顔してんのよ」
いつのまにこの糞球体から出てきたミラに気づかないほどに、自分の世界に没頭していた。
「で、動くのか?」
「いやーちょっとばかし修理が必要ね」
「ええええ! これどうやって隠すんだよ!」
「ココに置いてたらだめなのか?」
「ばれたら、もう分解、解析されまくってこの山は封鎖されるだろうし近寄れなくなるぞ!」
「うむ。それはいかんな それじゃあちょっと隠してくる」
「隠してくるって、そんな重いものどうやって動かすんだよ!」
宇宙船を持ち上げきょろきょろとし、山の奥へと歩みを進める。
「あ、慎治はそこで待ってて」
……つくづく、あいつは地球人じゃないんだな。そう実感した。
言われるがままに、岩に座りミラの帰りを待つ間、麓の景色をぼんやりと眺める。こうやって高いところから見る街編みというのもまた乙なものだ。
……多分、あのへんが俺の家か。
あそこから担がれて、この山まで連れてこられたのか。
そもそも、あいつは昨日の夜突然現れて、寝てる間ずっと観察され続けて、六階から飛び降りてそれでもまったく平気で、素手で警官ぶっとばして、終いには宇宙船を持ち上げてどこかへ行ってしまった。
簡単に纏めると、こんな一日を過ごした。
「夢のような出来事だ、悪い意味で」
地面に寝ころび空を見上げる。
四月の肌寒い空気とほんのりと暖かい日光。
雲の無い入学式日和の青空の日。俺は、異星人と出会った。