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「恐怖があるが故の」非日常

どこまでも広がる夕暮れの空。雲一つ無い空で、傾いた太陽から届くあまり強くない光が俺の身体を照らして、道路に長く長く影を作っている。

周囲はぼろぼろだ。さっきは綺麗に立っていたはずの電柱は見事にへし折られて道端に転がっている。道路も所々抉られた様に穴が開いて。塀も崩れて、瓦礫がそこ等中に散らばっている。

間違いない。間違いなく現実だ。認めよう。夢じゃない、本物だ。この世界も化け物も。

「非日常」がこんな近くに存在したんだ。

スマホを起動すれば、すぐに緑色のアプリが見つかった。あの「力」とやらもちゃんと今の状況では使えるらしい。




「ぎゅぁぁぁぁぁ!」

「うぅっ!?」


聞きたくない声が聞こえた。身体が硬直する。口の中が一気に乾く。背中に嫌な汗が一筋垂れる。目線を横へ、後ろへ向ける。

いた。いやがった。「悪魔」だ。頭が直角に曲がって目から血を垂れ流して黒い翼で飛んでくる奴。今度は一体らしい。


「ニンゲンだぁ!ニンゲンだぁ!うまそぉ!うまそぉ!」

「食べる気満々、か」


真っ直ぐ俺目掛けて空を飛んでくる。相変わらず速い、けど!

こっちは逃げる訳にいかねぇんだよ!そっちが俺を喰おうってんならこっちもやり返す!

スマホに指を走らせ、緑のアプリを起動。


【コマンド? たたかう ぼうぎょ にげる】


出てくるウィンドウと文字を見るや、すぐさま「たたかう」を選ぶ。


【レンのこうげき】

「ぎゃぁぁぁ!」


敵は一体だけだからか、選択する事も無く即座にそれは発動した。斬撃のエフェクトが敵に襲い掛かり、その肩を斬りつける。黒いもやが吹き出し、そして敵は止ま――――


「てめぇ!」

「うぁっ!?」


らなかった。斬られたままで、俺へ突進してきた。想定外の事に、俺は咄嗟に相手の動きに驚いて後ろへ倒れこむ様にしか出来なかった。


「づっ……!」


左肩にズキィ、と嫌な痛みを感じると同時に、そこが急激に熱くなりだした。目を向ければ、制服ごとその部分が抉れて、赤く染まりだしていた。

血だ。血が流れている。怪我だ、と解った瞬間、一気に身体が震え始めた。

痛い。熱い。怖い。やっぱり死んでしまうかもしれない。喰われてしまうのかもしれない。嫌だ。そんなのは嫌だ。死にたくない。怖い。帰りたい。見ず知らずだった事にしてもう帰りたい。

相手が振り返る。口元から血が垂れている……俺のだろうか。俺を喰ったのか。そして満足しないで更に俺めがけて飛んでくるのか。もっと喰いたいのか。俺はお前の餌なのか。


「……ざっけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


頭の中がぐちゃぐちゃで。傷口が痛くて。身体が妙に熱くてたまらなくて。もう何が何だか解らないまま、ただ訳の分からないまま叫んでいた。


【コマンド? たたかう まほう ぼうぎょ にげる】


スマホに指を滑らせ、迷わず「まほう」のコマンドを押しこむ。


【レンはまほうをとなえた】

「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!?」


文章が表示されると同時、足元に魔方陣のようなものが現れた。次の瞬間、風が吹き荒れて服が、髪が、揺れ動く。風は敵へと殺到し、その不気味な身体のあちこちをお構いなしに切り裂いて黒いもやを多く生み出した。

翼も斬られて悪魔は地面に崩れ落ちる。じたばたもがく様は非常にシュールだ。さっきまで俺の事を喰って殺そうとしていたくせに。ニタニタと不気味な顔で笑っていたくせに。


「……終わりだ」

【レンのこうげき】


再びコマンドを入力。斬撃が相手に襲い掛かり、ぶった切った。黒いもやに塗れ、泥の様に崩れて、悪魔は消えた。

消えた。完全に。また、殺した事になるんだろうか。昨日もそうだったけど、罪悪感というか、そういう感想を全く抱かない。何でだろう。相手が血を出さないから?相手が化け物だから?相手が怖かったから?相手が俺を喰おうとしたから?

……解らない。


思わず座り込む。痛い、左腕を動かすだけでジンジン響く。こんなんじゃ他の悪魔に会った時、何も出来ずに今度こそ殺されてしまうんだろうか……。

とりあえず、血だ。血を何とかしないと……どうすれば良いんだっけ。とりあえずハンカチを当てて、縛りつける様にすれば良いんだっけ。あぁもう保健室の張り紙とかもうちょっと読んどけば良かった。




「何か起きてると思って来てみたら。何、また来ちゃったの?」


鞄を漁る俺にかかる声。振り返れば、パーカー姿の少女。間違いない、昨日出会った少女。彼女は今度は普通に道路を歩いて、じっと俺を見下ろす様に眺めていた。


「……あー、えっと。まぁ、来ちゃった、訳で」

「ふぅん。まぁどうでも良いけど……血の匂い。怪我してる?」


微妙な顔をするしかない俺に、軽く顔をしかめる様にして少女は言う。匂いって何だ、そんなに嗅覚が凄いのか。それとも血の匂いに敏感な吸血鬼的な何かか。

そんなどうでも良い事を考えてる間にも、少女はつかつか歩み寄ってくる。そして襟首の辺りに手を伸ばして掴んできた。


「え、何?」

「傷。見せて」

「は?いや、これは」

「良いから」


言われるままに制服の上半分のボタンを外し、肩を剥き出しのようにする。血で服とくっつきそうになってたのか、それだけでも結構痛い……繊維とか付いてなきゃ良いんだけど。

改めてみるとホント気分の良いものじゃない……なんというか、ぐろい。ぐちょぐちょってなってる感じがまた何とも言えない嫌な感じだ。

少女はそんな俺の左肩に顔を近づけると、ふっと息を吹きかけた。


「づぁっ!?」

「我慢」


吹きかけられた息が傷口に突き刺さるような痛みに感じ、思わず身体が跳ねる。いきなり何をするんだこいつ……!


「って、え?」


確認したその傷が、何かで覆われている。かさぶた?にしては早過ぎるだろ。

恐る恐る指で触れると、それは冷たくて硬い。それ以上にまだ痛かったので慌てて指を離す。


「応急処置。氷で傷を塞いだよ、少しだけ痛覚もマヒしてる。普通に動くだけなら少し痛い位で済む」

「す、すっげぇ……これ、君が?」


こく、と彼女は頷いた。フードの下で青の瞳が一瞬光った気がした、けど……気のせいだろ、うん。

軽く左腕を回す……さっきよりだいぶ痛みは引いた、これ位なら何とかなりそうだ。


ありがとう、と言おうと思った時、今更ながら重要な事を思い出した。俺、こいつをどんな風に呼べば良いんだ?


「あー、その。君、名前は?」


きょとんとする彼女。戸惑ってるような感じにも見えて、俺は何か変な質問をしただろうかと不安になってしまう。


「あぁ、名前。あたしの?リアン。そっちは?」

「リアン、か。俺は蓮。改めてこれ、ありがとな」


リアン……外国人との混血だとか?それかあだ名?いやまぁ今はそんな事を気にしてる場合じゃないな。新山が危ない……もしかしたら、今だって襲われて逃げているかもしれないんだ。こうしちゃいられない。


「なぁ、えっと……リアン?」

「何」

「あー、俺はこの場所の事を何にも知らない。けど、新山って奴がここに迷い込んでるかもしれないんだ。だからその、そいつを助けるのを手伝ってくれないか?」


助ける、という言葉に不思議そうにした後、リアンは指を唇に当てて考え込む。顔をしかめてるっぽいのを見るに……乗り気、ではないのかもしれない。いやまぁそれはそうか、つい昨日あったばっかの俺にいきなり手伝ってくれだなんて頼まれてもそりゃ厳しい。俺ならまず断る。けど、状況が状況だ。俺よりリアンは悪魔とかにも詳しいんだろうし、力も使えるってんなら是非とも手伝って欲しいに決まってる。数が多い方が有利なのはいつだって変わらない。


「頼む!俺に出来る事なら何でもするから!」


頭を下げて頼み込む。こんな風に頼み込むのは本当にいつぶりだろうか。あの時か……小学生の時。いじめられていたあの時か。あれは本当に嫌な気分だったし、二度とやりたくないだなんて考えていたが。今は全くそんな風に感じない。俺が望んだから。俺のわがままだから。それで救えるんなら。何の取り柄も無い俺が出来るのなら、やってやる。


「……あのさ。手伝うのは良いけど、質問」

「何?」


少女が口を開いた。俺なんかに聞いて楽しい事があるとはあまり思えないが、せっかく手伝ってくれるんだ、真面目に答えないと。


「その、えーと。ニーヤマ?って、レンにとって何なの?」

「ぇ?何、って……その、何と言うか。知り合いだよ。あまり、話した事は無いけど」


正直に答える。話した事はあまり無いのは事実だ。だから知らない。あいつの事を語る事は出来やしない。明弘だったら、話せるんだろうな。あいつのコミュニケーション能力はマジで羨ましい。

そんな俺の答えに疑問を覚えたのか、リアンは首を傾げた。


「……話した事が無いのに、助けるの?」

「まぁ、な。一応見知った顔、だから」




「悪魔はあっさり殺しちゃうくせに?」




それを聞いた瞬間、俺という存在の全てが固まった気がした。

殺した。確かに俺は、これまで……三体。悪魔を「殺した」。「消滅させた」。

何でだ。俺を襲ったから。俺を喰おうとしたから。俺を殺そうとしてきたから。

何でだ。怖かったから。死にたくなかったから。

理由を声に出すのは簡単なはずだった。なのに、口から言葉が出ない。

リアンという未だ謎だらけの少女の前で。こんな答えをあっさりと口にしてはいけない気がした。


答えられない俺を少しの間リアンは見ていたが、「まぁ良いや」と素っ気ない言葉で告げた。元々答えはどうでも良かったのか、それともこのまま待ってても自分に納得の行く答えが得られないと知ったからなのか。


「最近、悪魔はよく騒がしくしてる。人間がここに入ってくる事が増えたからみたい」

「増え、た?」


俺に背を向け、空を見上げる様にして話すリアン。

朝のテレビを思い出した。行方不明者についてのニュース。「最近」よく聞く気がした似たようなニュース。まさか……?


「ちょっと離れた部分で、悪魔がなんか追っかけてる。もしかしたら、それかも」

「!マジか!」


やばい!俺はたまたま運が良過ぎて生き残れたんだと思う、けど新山はそうじゃない。あいつもまた俺みたいに力に目覚めるだなんて保証はどこにも無い……!


「リアン!案内頼む!」

「解った、こっち」


リアンの背中を追うようにして俺は走り出す。

無事な新山に、ルービックキューブを渡さなきゃいけないから。


猫ツールです。


若干哲学というか、命題みたいな事を入れてみました。

ゲームとかやってるとたまに考えてしまう事です、俺の場合はすぐ頭からぽろっと抜け落ちてしまうのですが(ダメじゃん

この物語の中核の一つとして上手く運ばせられたら、良いなぁ、と(ぉぃ


謎多き少女、リアンと共に蓮が行動する様になりました。謎多き、と言いながら話の流れでリアンについて大体の予想がついてる人が多そうで若干びくびくしてますが(苦笑

RPGとかでもそうですが、主人公1人だけから仲間が増えた時って無性に嬉しいですよね。やはり数が多いと出来る事だって増えるし、それにこのキャラはどうやって物語の中で動いていくんだろうと考えたりするとわくわくしますし。


次回からいよいよ本格的(?)な非日常での戦闘です。

何とか頑張りたいと思いますので、良ければお付き合いくださいませ。

それでは

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