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「未知の」世界

死にたくなんてなかった。

当たり前だ。死ぬというのは目の前が見えなくなる事だ。空気を吸う感覚も無くなってしまう事だ。温度を感じなくなる事だ。触れる感触さえ解らない事だ。何もかもを感じなくなってしまう事だ。今までの当たり前が全部無くなってしまう。全部を奪われてしまう。本当の意味で独りぼっちになってしまう。

死んだ事なんて無いから解らない。天国だとか地獄だとかがあるのかどうかさえ解らない。解らない。解らない事だらけだ。そんなのは嫌だ。


だから叫んでいた。怖いから。生きたいから。

まるでその叫びに反応するように、スマホは光を放つ。


【インストール完了】


画面に浮かび上がる文字。続いてメニュー画面に現れる、見慣れない緑色のグラフィックのアプリ。何だこりゃ、と思う前に指は動きそのアプリを起動する。すぐに画面は切り替わり、背景は黒に。そして昔のゲームを髣髴とさせるようなウィンドウと文字が表示される。




【コマンド? たたかう ぼうぎょ にげる】




「RPGかよ!」


思わずツッコみながらも指を画面に走らせる。「たたかう」?どうやって戦えっていうんだあんなのと。こっちは帰宅部で何の取り柄もない高校生だっつの。「ぼうぎょ」?良いかなと思ったけど鞄でガード出来るかと言われれば微妙。RPGみたいにHPだなんて概念、現実じゃ通用しない。あっさり回復なんて出来る筈がない。だからこそ選択肢はただ一つしかない。


【にげる】


選択した途端、身体が軽く感じる。それと同時、俺の身体は無意識に影から飛び出していた……いや待て、待て!

こんな状況で飛び出すとか何してるんだ俺は!?ついさっきまで全力疾走しててロクに鍛えてない身体はまともに動きやしないっていうのに!


「みぃつけた!みぃつけた!」

「ご馳走!ご馳走!」


見つからないはずがなかった。あろうことか俺は自分を追いかける化け物に向かって走っているのだから。「にげる」を選択したはずなのに「たたかう」を選択してたなんて事は無いよな?だったら恨むぞスマホの認識機能。

死ぬと分かった時はやたらと時間の感覚が遅くなるという表現はよく聞く。きっとこんな感じなんだろう、とバカな事が頭に浮かぶ。顔が近づいてくる。怖い。血を流す瞳が。直角に曲がってしまっているその頭が。何より涎を垂らしつつ開かれる、俺の事を喰う気満々の口が怖い。近づいてくるのが止められない。怖い。嫌だ死にたくない。


「っ!?」


ガクン、と。俺の視界がいきなり下へと下がった。それと同時、腰から背中半分にかけて引きずられるかのような痛みに襲われる。

スライディングをしていたのだ。しばらくの間買い換えていなかった靴はあまり摩擦の力を持っておらず、地面を上手く滑っている様だ。

何が起こったのか考える暇も無い。つんのめりそうになりながらなんとかすぐさま立ち上がり、路地裏から走り出る。


「逃がすか!逃がすか!」

「食べたい!食べたい!」


信じられない事だが、俺は再び「逃げる事が出来て」いる様だ。「にげる」コマンドは成功だったらしい。身体の軽さは段々重くなりつつあるのを感じながらただひたすらに走る。でもどうすれば良い。相変わらず追いかけられているようだし、隠れようと思っても匂いとやらで見つかってしまう。かといって直線距離で逃げ切れない。ジリ貧なのは確実なんだ。


「とおせんぼ!とおせんぼ!」

「うぅっ!」


頭を何とか回しつつ走る俺の前に俺を追いかけているはずの化け物が一体、横道から飛び出してきた。とっさに後ろへ方向転換するが。


「逃がさない!逃がさない!」


そっちも化け物が翼をはためかせて笑う。挟み撃ちされた!


【まわりこまれてしまった!】

「言われんでもわかっとるわ!」


スマホに律儀に表示された言葉に思わず叫ぶ。使えねぇなこれ!?そんな部分までRPG仕様にしなくて良いんだよ!


「じゃぁ!じゃぁ!」

「いただきまーす!」


ご丁寧に両手を合わせてから、一体が俺目掛けて飛んでくる。避けられそうにない、足が竦んでしまって思う様に動かない。あぁもうダメ元だ!


【ぼうぎょ】


そのコマンドを選ぶと同時、鞄を前に突き出すようにする。来るであろう衝撃に目を閉じて……。

……。……?あ?何も来ない?

目を、恐る恐る開ける。


「えっ」


思わず口から声が漏れた。目の前に緑に光る六角形の図形が浮かび上がり、壁の様になって化け物の顔面が阻まれる様に激突していた。


「飯ぃー!飯ぃ!」

「うわっ!」


後ろから来る化け物にも思わず拒む様に手を伸ばせば、こっちにも六角形はあらわれ、化け物と衝突する。

俺を守ってくれている。これが「ぼうぎょ」……。


後使っていないコマンドは、「たたかう」だけ。もしかして、という小さな考えが浮かび上がる。これも、使えるのだろうか。

もしかしたら、倒せるのだろうか。こんないかにもファンタジーな化け物を相手に。同じくファンタジーな力で勝つ事が出来るのだろうか。

六角形に邪魔されてる化け物を見ながら、スマホに指を伸ばす。「たたかう」コマンドを、押す。

……?あれ、反応しない。押す。もう一度押す。やはり反応しない。画面は映っているのに動かない。何で、とふと目線をずらせばコマンドの下にある白いバーに気が付いた。徐々に伸びつつあるそれの上に、「Waiting」と表示されている。

……ぉい。これはあれか、このゲージがMAXになってやっと行動出来る奴か。


「やっぱ使えねぇぇぇぇ!?」


思わず声に出してしまう。泣きたくなってきた、だからそういう所を妙に再現しなくたって良いんだって!?

とりあえず走る。六角形の壁が横を走り抜ける俺を庇ってくれる……大体予想が付いた、次のアクションを起こすまで自動的に防御してくれるシステムらしい。とりあえず今の内に走って距離を稼ぐ!


「待て!待て!」

「てめぇ!てめぇ!『ニンゲン』のくせに!『ニンゲン』のくせに!」


すぐに追いすがってくる声。スマホを見ればゲージは満タン。次のアクションが行える様になって「ぼうぎょ」の効果が切れたらしい。

今度こそ「こうげき」を選択する。「だれに?」と聞いてきたのでとりあえずAを選ぶ。ほんとRPGだなこれ。


【レンのこうげき】

「ぎゃぁぁぁ!」


その言葉が表示された瞬間、後ろから悲鳴の様な言葉が。「こうげき」コマンド、成功の様だ。

振り返れば、化け物の一体が地面に落ちているのが見えた。翼が片方見当たらない。背中から黒いもやの様なものを吹き出しながら。それは呻き、もがいていた。

それを見て警戒したのか、もう片方の化け物がギャーギャー何かを叫びながら俺と地面に落ちてる化け物を交互に見やる。すっかり聞き取れなくなったが、頭に響くその声が更に強烈で少し吐き気がしてきた。

ゲージが溜まる。再び「たたかう」、今度はBを選択。ゲームでよくあるような斬撃のエフェクトが見えたかと思うと、相手を切り裂いた。狙った訳でもないがまたも翼を斬り落とし、化け物は両方地面の上でのたうち回る事になった。切断面から黒いもやがあふれ出る。繋がりを失ったカラスの様な翼もどろっと溶ける様になったかと思うと、そのまま空中で霧散した。


じたばたとわめき、もがく化け物。とりあえず何とかなったかと思いきや、しぶとい事に両方とも起き上がりやがった。ふらつきながら、それでいて目から血をだらだら流してこっちを睨んでくるのが怖い。足が震える、逃げたくなる。けど、逃げてるだけでは身体能力ダメダメの俺はいつか絶対捕まってしまう。それに化け物がこいつらだけだとは限らない。だから。

だからここで、完全に倒さなきゃいけない……!こっちに歯向かいたくないと思わせるまで、「こっちが強いんだ」と思わせなきゃいけない!それがきっと出来る力が、今の俺にはある!


スマホを見る。ゲージがもう少しで満タンになる……なった。


【コマンド? たたかう ひっさつ ぼうぎょ にげる】


あれ?コマンドが増えている。「ひっさつ」……まんま必殺技だろうか。気が利いてるじゃないか、最後をこうやって決めるのは王道だと思う。

未だに心臓がバクバクと無駄にせわしなく音を刻んで鬱陶しい。今になって足も肩も指も震えてきた。さっきまでやたらと走り回ったせいで限界が来ただろうか。それとも、翼を斬られてスピードがかなり落ちた今も細い足で俺を喰おうと走り寄ってくる奴等への恐怖だろうか。解らない、さっきから色々あり過ぎて何が何だか。思考も案外放棄しちゃってるのかもしれない。

だがやるべき事は、きっちり。きっちりさせてもらう……!




【ひっさつ】

「行っけえぇぇぇええぇええぇええっぇぇぇぇえ!!」




「ひっさつ」に指を押し付けた。コマンドが入力され、そして。


目の前が一瞬揺らいだかの様に見えた次の瞬間。

化け物二体の身体は腹の当たりで、見事に真横へ両断された。

黒いもやが翼を斬った時より更に多く溢れ出す。目を見開いたまま、そいつ等は二つに増えた身体のまま倒れ伏した。黒いもやに包まれ、その身体も黒ずんでいって……泥みたいに崩れたかと思うと、そのまま消えていった。


「は。は……は、はは、は」


もう限界だった。情けない声を出しながら地面に座り込む。勢いがついて尻が痛かったがそれ以上に脚にもう力が入らなかった。

倒した……何とか、勝つ事が出来た。生きてる。俺は。息をして。心臓も動いて。今もこうやって生きている。その事が、たまらなく嬉しい。




「ふーん、意外。倒せるんだ」




そんな時だった。後ろから後ろの方から声が聞こえたのは。

慌てて振り返る俺の視界に、人影が映った。


まだ崩れていない塀の上に立ち、しゃがみ込むようにして俺の方をじっと眺めている。青いパーカーのフードの下から、顔が覗く。凛としていて。そしてどこか可愛らしさも含めた、いわゆる美少女顔。

そんなに時間は立っていないはずなのに、やたらと久しぶりに感じる人の姿だった。


どうも、猫ツールです。

ようやっと初戦闘をお披露目する事となりました。


能力を考えたりするのは楽しいもので、この戦闘も色々と楽しみながら書いていました。スマホ云々は最初から考えていましたが、シリアス(笑)になる部分の一部は書いてる途中でノリで加えたものだったりします


そして新キャラ登場です。やっと女性登場です。

詳しくは次回。


この勢いとノリを続けられたらと思いつつも、アドバイスなどは常に募集しております。

それでは

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