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聖ウァレンティヌスは渡せたのでしょうか?

読んでくださると嬉しいです。

 ほろ苦さで満たされている、と思ったことはありませんか?

 私は思うのです、実にこの世界は、どんな時だって甘さがあって苦さがあって。

 まるでまるでそれは、私の大好きなチョコレートの様だと思うのですよ。

 そんなチョコレートを皆さんが想いを綴じてお配りになる日がありますよね。

 そう、そうです、バレンタインデーです。

 バレンタインデーが私は大好きです、皆が甘さを感じて、それにちょっぴり苦さも感じて。

 そんな私の大好きなバレンタインデーの日に、とあるお城がこの世界には生まれるのです。

 城……いえ、御国と言った方がよろしいでしょうか。

 御国の名前は、【びたーヴァレンタイン】お城の名前は【びたーヴァレンタインキャッスル】

 この御国でのその御城、そこにて、バレンタインの日にパレードが巻き起こるのです。

 お金持ちのご令嬢も襟を立てた紳士も皆々様が手と手を取り合い雰囲気の良い音楽に合わせて

 御花のように舞い散るのです、そうして舞い散った後でチョコレートを気の良い者同士で

 食べ合うのです、王様も王女様も皆々様がチョコレートによってお幸せになるのです。

 これは、そんな魔法の様な幻想的な日々の中で、チョコレートの様なほろ苦さと

 ほろ甘さを一遍に隔たる事無く味わってしまった男の子と女の子のお話です。

 この世界はほろ苦さで満たされている、と思ったことはありませんか?

 この世界はほろ甘さにも満たされている、と思ったことはありませんか?

 私はおもうのですよ、想うのです、実にこの世界は、

 どんな時だって甘さがあり苦さがあり、……。

 この世界は…チョコレートの様に…素晴らしい世界だと。

  

 

 僕は、バレンタインが嫌いだ。

 なぜなら、バレンタインというのはどう考えてもカカオ豆を原料とし加工して販売する企業の謀略にしか思えないからだ、そして、それに引っ掛かるパンピー共が騒がしい事が全く持って気に入らないからだ。

 「それ、自分がもらえないからじゃなーいの」

 椅子を向い合せにしているはずなのに、一人バレンタインへの不満を言い募っている僕に嫌気が差したのか、友人の冨音 暖は、柔かい表情で嘲笑いながら蔑んでくる。

 コイツはいつもそうだ、目の前にいる友人に対しての文句も付け加えて

 心の中で僕は叫ぶ、此奴もそうだ、と。

 気に入らない事があれば、すぐに自分を棚に揚げて周りを指摘する。

 今だってそうじゃないか、もとはと言えば、此奴に(僕の名前は、歩廊 可過嗚―ほろう かかお)

 「かーかお、一緒にご飯食べようぜ」と誘われたというのに、なぜ僕が此奴にサービスを

 してやらなくてはならない、僕は一人落ち着いてお昼ご飯を食べたかっただけだというのに。

 気に食わない、とても気に食わない。

 今日という日がバレンタインデーで、自分の名前がカカオとかいう親が「お母さんね、お父さんにバレンタインデーの日に告白されたのよ、だから、かぁ君にはね、カカオって名前を付けたのよ」僕からすればどうでもいい理由で名付けられた所為で、普段全く喋らない奴にも「カカオ、お前の日だな」「かーかお、溶かしたりできねーの?」「かかおってさ、男の癖に割と可愛いよな」最後は関係ないが、あれやこれやと詰られる。

 そんな事もあって、今日の僕の精神状態は今にも蕩けてしまいそうな程に板チョコの様に繊細だ。

 あれ、もしかして今、僕…上手いこと…言えてないよな、あぁイライラする。

 「は? 自分がもらえないからって他人を蔑むの? 何それ最低だなお前から見て俺ってそういう存在だったんだ? へぇ、そう思ってんだったら俺と仲良く昼飯何で食ってる訳?」

 半分は本音であり、半分は八つ当たりである。

 それにしても本当に、机と椅子で占められている教室は今日、やけにけたたましい。

 朝学校に来た時から、普段は音すら忍者の様に出さず忍んでいる冴えない男でさえどこかそわそわしているのだ、なんでお前が期待してんだよと言ってやりたかったがやめておいた無駄な喧嘩は嫌いだから。

 「何切れてんだよ……やけに機嫌悪いよな、どうした? 教室出るか?」

 唯自分の想いを殴る様にぶつけてしまった事を恥じれ後悔しろと言わんばかりの友人の

 年齢にそぐわない包容力に、又僕は心のカリカリ度を上昇させる。

 きっと此奴が僕の友人である所以はこういう所にあるのだ、いくら毒づいていても

 類まれなる性別を疑ってしまう程の温かさで僕をくるむ様に支えてくれる。

 本当にイライラしていたので、友人の言葉に僕は「あぁ? 母親かよ…うぜえ」と思春期真っ盛りの息子の様な言葉を吐きながらも、教室を出るか? という言葉に甘え素直に風潮に流される流行り共の巣窟から退散を已む無しとした。

 教室を出てからも、ずっと舌打ちを繰り返した僕を見かねて、友人は、そうっと「あそこ行こうぜ」と片手人差し指で、空いている教室を探して中に入り椅子に落ち着かせてくれた。

 教室の名前は一瞬しか見ていなかったけど、確か【調理室】

 調理室は閑散としていて誰もおらず、がたりと誰かが手ぬるい片付け方をした所為でよろめいた食器たちの音がするのみだった。

 「ここなら、いいだろ?」

 友人は、口角をクイッと上げて、「さぁ自らの仕事を褒めろ」とでも言いたげだ。

 …そう僕が想っているだけで実際この友人は「特に何もしていない」と素で言う奴だから困るのだけど。

 ようやく頭に延々とクランクインしていた蚊の飛翔音の様な針穴に糸を通す時のような緊張感の様な、両方とが出会いを果して創り上げられた感じの音が鳴りやんだ僕は、友人の言葉にまともに返事が出来た。

 「……ここなら、いいよ」

 冷静に考えると、自分のこの発言は少々誰もいない閑散とした調理室で男二人でするには聞く人が聞けば、怪しさと奇妙さを感じるかもしれない……。

 でも実際には、僕ら二人はお弁当箱を広げているだけなので、現場を確認してもらえばおそらくだが情状酌量の余地くらいはもらえるだろう、そう祈る。

 「そうか、じゃあ、食うか」

 僕ら二人、(先ほどは気持ちが高ぶっていたあまり普段は使用しない″俺″などというどこか粗暴さを感じさせる言葉を使用してしまっていた、恥じる)はおもむろに各自が持っていたバンダナで包んでいた食料を調理用の大机に向かい合わせに広げた、わざわざ大机で食べる必要はないし普通サイズの机もあったのだが、風情? か何かはわからないがとにかく、せっかくだからと、曖昧な理由で互いが互いに自然に大机の方に向かってしまっていた。

 「これが共感覚という奴か?」

 友人は、二人が二人、大机に足を運ばせたとき、そんなことを呟いたが、僕が即座に「意味が違うだろう、今使うべき言葉は多分だけど共鳴じゃないか?」と否定した。

 「匂う匂う、クサい事言うねェ」と茶化してきたから、足蹴りを見舞った。

 大机に落ち着いた僕ら二人は、大人しくお弁当を食べる。

 閑散とした調理室では、数多壁に張り付いている窓の一窓だけ空いていて心地の良い風が流れ込んできていた。

 「お前の弁当、美味そうだな、その肉塊くれよ」

 風流だ、と厭うていると友人が風も空気も読めず、僕の弁当に入っているハンバーグを掠め取っていた。

 「それ、肉塊じゃなくて、ハンバーグっていうんだよ、文明人への理解を深めようか」

 ハンバーグを取った罪は、見過ごすとして、僕は友人に在り方というものを説いた。

 ついでに、「せっかくだからゆっくり食べようよ」と先ほどとは機嫌が変わりすぎている都合の良い奴だな、と自分を自分の把握していない場所で笑いながら友人に言う。

 「…確かにな、ここだけ空間が違うみたいに時の流れを感じないし…そういうのもありか」

 人の良い、騙されそうな程の友人は素直に僕の言う通り箸を動かす手を遅めた。

 本当に、出来た人間だ……けれど、こんな彼もいざという時には僕を…どうするだろう。

 窮地に立たされた時周りにいる人間が自分を庇護してくれるかどうか。

 そんな、どこか幼なじみた事を考えながら、お弁当を片付けていると。

 開いていた一窓の開け放たれて風に成すがままにされているカーテンの丁度覆い尽くせていない部分

 下に足が見えた気がして、友人に尋ねる。

 「カーテンにさ、誰か隠れてない?」

 すると友人は、僕と同じようにカーテンの方へと視線を移して、覆い尽くせていない部分を凝視。

 凝視している間にもカーテンは風にまたしても振り回されはためく。

 はためく刹那、映像の途切れ途切れの様に一人の女の子が垣間見えた。 

 「ほら、あの子だよ、あの子……」

 失礼千万とわかっていながら、女の子をどの指を指しているかもわからない程に戸惑いながら、友人に示す僕、当然だ、だって僕ら二人が入ってきたときは確かに…いや、この世に絶対なんていう言葉はないし不用意にそれをつかってはいけないから…これ以上は言えない、けれど彼女が僕ら二人の前に、忽然と姿を現したことは確かなのだ。

 「えぇ? あの子? あの子ってどの子の事だよ…お前、もしかして、さっきの所為で疲労溜まってるんじゃ……」

 おかしい……。

 友人に、彼女の方を示しながら、僕は違和感に気付いた、いくら友人に彼女の方を示した所で、友人にはどうやら彼女が視覚出来ないようで……。

 ひょっとしたら、彼は良い奴だから、僕を楽しませようとして矜持としてジョークとして、おふざけ半分で、素振りを振るっているのかもしれない、そう思い、僕は椅子を立ち彼女の方へ歩いて行った。

 そうして、彼女に話し掛けた、さすがの友人でもここまですれば、そんなおふざけはやめるだろうと思ったからだ、正直僕の頭は動転していた。

 「えぇと……ごめん、君、どこのクラスの人かな? いきなりで悪いけど」

 彼女は背丈が僕とほぼ同じくらいで、当たり前だけどここの学校の女子用制服を着用していた。

 物憂いている様な表情を頬に湛えていたのを見て、もしかすると話し掛けない方がよかったか? とも思ったけど、後には戻れず彼女の返答を待った。

 彼女の返答を待っていると後ろから友人の声がした。

 「おーい、お前、カーテンと話してんの? 確かにちょっとセクシーだけど……それはないわ」

 友人の声を聞いて、僕はようやく納得出来た、あぁ……彼には彼女が見えていないのか……と。

 身体中が琴線の様に細長い悪寒に支配されそうな感覚に陥りそうになりながら、僕は、僕にしか視認出来ないらしい彼女の声を待った。

 「……こ……」

 一瞬、聞き間違いかと思い、自分の耳に届いた彼女の言葉に疑問を持ち、もう一度促した。

 「ごめん……もう一度、言ってくれないかな、聞こえなくてさ」

 疑問を持って尚且つ彼女の声は糸のようにか細く伝う様だったので確信も持てなかった。

 すると、彼女が一拍程の息継ぎをする息遣いの音が聞こえて、後に音が走った。

 「ちょこれーと……あげようと、想って……」

 彼女の言葉に、誰に? と聞く野暮な事を僕はする必要がなかった、なぜなら彼女の両手には 

 赤いラッピングのされたハート型チョコレートが中に入っている事だろう包装紙が携えられており、

 どう考えても其れは、目の前にいる僕に突き出されていた。

 僕の聞いた質問の、答えになっていない所とか。

 本当なら、もっとたくさんの幾重にも彼女に突っ込みたい部分があったけど。

 とりあえず、うんざりしていた僕は小さく呟いた。

 「……またチョコレートか……」と。

 

 

 

女の子からもらえたチョコレートは食べれず……いつも歳月を掛けて腐らせてしまっていました…。気付いた時には溶けきっていたり…。

受け取った物は、保存しちゃうと案外、欠片になっちゃったりしちゃいますね、すいません、では読んでくださり有難うございました。

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