11 八日目。青森(6)
その場に立ち尽くし、背中に迫る気配に、ぼくは振り向きもせず声をかけたのです。
「来るな!」
その声音に真剣の響きを感じたのでしょうか、背後の人物の足音が、ぴたりと止まります。
「……」
これが初の旅――
記念すべき初のゴールなのでした。
楽しみ、悲しみ、そのすべての結果の、ゴールなのでした。
苦楽をともにした、二人のためだけの、神聖なゴール。
それが、誰かに追われるままの、なし崩し的なものになるなんて、絶対に容認できない事態でした。
一体じぶんはこの旅で、どれほどのことができたのか――?
なにかあるたびに、誰かに助けてもらったり、逃げたりで、自分からトラブルに立ち向かい、解決できたことがなかったように感じるのです。
極端なことを言えば、ここ。このゴールさえ、追跡者ふくむ周囲に押されたがゆえに、来られたのではなかったか?
せめて最後は、このゴールこそは、自分の意思で受け入れる――
そうでなければ、どのような結末を迎えるにしても、必ずや後悔の念に、一生苛ることとなるでしょう。
ラストランは、自分の自由意思で、走る!
それが、こんな状況のさなかであっても、意固地なまでに変えなかった意思だったのでした。
ならば、行――
さぁ、行――!
行――!
――!
――
――
――嗚呼、行! 一歩も、踏み出せず!!!
行は、泣いていたのでした。こんなにも決意を固めながら、結局みずから足を踏み出せないその情けなさに……では決してなく! 違う!
「――!」喚きたい! 叫びたい――!
嗚呼なぜ神さまは、こんな試練を与えたもうたか――!?!
行の足は、凍りついたままだったのです。
「行きましょう」
蘭が、泣き笑いの顔で、すさまじく綺麗な声をかけました。
行――!
この期に及んで、他者に前進を促される。
それも、最愛の人に、当の本人に促される。
さようなら、と――!!!
行は、泣いていたのでした。
「――イヤだ! ぼくは動かない。ここにいる!」
「だめだよ、コオくん。それはだめなんだよ――」
蘭が泣きだし、二人ともゴールを目前にして、石のように動けなくなってしまったのでした。
二人のその態度に業を煮やしたように、背後から、再び足を運び始める気配が起こります。
それでも、行は、動けなかったのです。
もう、どうとでもしてくれ。
そんな心境だったのでした。
そのとき――




