11 八日目。青森(3)
国道454号と比べるのは失礼なほど、広々と整備された、国道102号だったのでした。素晴らしいことに街路灯もあり、勇気の沸きようったら天地ほどの差があったのです。途中の“道の駅”では休憩もでき、自販機で――さすが東北地方!――熱い缶スープをゲットして、生き返る思いというヤツをしみじみと味わったのでした。ようやく、二人に笑みが戻ります。
ちなみに、ここはダム湖(虹の湖)なのですが、今はまっ暗で何も見えず、でした。
さぁ出発――!
十数分して、黒石市の分岐点に到達。右折、国道394号へ進みます。
国道394号は、またしても灯のない道だったのですが、しかしながら道幅がしっかりあり、カーブの様相も国道の名に相応しく大きく、堂々たるもので、その点だけでも遙かに上等。しつこいですが先の454号は、思い返すのも勘弁だと思ったのでした。
途中――
“追われている”、という胸騒ぎがあり、少し速度をあげます。
不安な勘が働いたのが454号の時でなくてよかったと、未だに思ったりするのでした。
徐々に標高が上がっていきます。
それにつれて気温も下がり、夏なのに、クーラー効き過ぎの部屋の中のような、そんな状況になってきたのでした。
疲労もピーク、睡魔にも襲われ、元よりの暗闇の中――
自分が、進んでいるのか、立ち止まっているのか、ちゃんと真っ直ぐ立っているのか、ひょっとしてナナメに体が傾いでいるのではないか!?
闇の中、“蘭海”で泳いでいるような感じで、上も下も、右も左も、過去も未来も、覚束なく――
そんな不安定感が極限に達したのが、城ヶ倉大橋に至ったときでした。大きな谷の、こちらとあちらをつなぐ陸橋ですが、その高さは驚きの122m。高い! アーチ支間長は255mで、これは今現在、上路式アーチ橋では日本一の大橋です。
そのとき――
橋だと認識できた瞬間です。まっすぐ伸びるその橋梁の両サイドから――
高さ122mだというその谷底から――
地獄の底から暗黒の魔風がごおごおと吹き上がる幻覚に襲われ――
ふらふらとガードを乗り越えて空中へ泳ぎ出してしまいそうな錯覚に襲われて――
蘭と二人して鞍を降り、路上に立ち、手をつなぎ。コン吉、ケンケンを外側にして、二頭の毛皮に挟まれる暖かい陣形にて、徒歩で全長360m、橋の真ん中を渡ったのでした。
渡りきった直後のことだったかと思います。そのとき起こったことについては意識が曖昧です。本当にあったことかと尋ねられれば、我ながら首を傾げるしまつです。何なのか、と言うと――
もう他人事であるかの言いようですが、直下型の地震が起こった、のでした。
突如、蘭、コン吉、ケンケン、皆して撥ね飛ばされるような激烈な揺れに突き上げられ、それ故に、すべて黒き夢の中の出来事であるかのようにも感じたし――
よろめいて後ろを見ると――
今し方渡ったばかりの大橋が、無くなっていて。
崩れ落ちて、地獄の底穴の、闇色の空白を見せていて――
もう少し遅かったら大惨事だったのですが、この頃には感覚が相当麻痺していて――
とにかく、二人して、本能的に、逃げるようにその場を立ち去ったのでありました。
そのとき、ちらりと頭をかすめたのは、これで“追っ手”を足止めさせられる。だったのです。
そして。
午前3時半。ついに国道103号に至る。ここを左折すれば、あとはそのまま道なりで――
青森市です。




