10 七日目。秋田・青森(16)
さぁ、一気に醒めて、吹っ飛びあがる二人だったのです。正座です! びしッ!
入ってきたのは、ピンク色した、蛙のような姿した宿の仲居さんでした。
今にもパクリとやられそうな大きな口を開いて、
「※※(即時)(逃げなさい)!」
そして、わざわざ用意してくれたのでしょう、おにぎりの包みを押し付けてくるのでした。
このころには立ち直っていた二人――とくに、行!
行ですが、この時ばかりは、行――
もう行はもう、この機を逃さず何としてでも、訳を聞きださんとする決意を、一気に燃やしたのでした。
けっして恥ずかしさを誤魔化すためではありません。
ところが――
「※※(この戦いが)(終了)(結婚するんだと……)」
そこで彼女はオヨヨと泣き崩れるのです。どうしようもありません。またしても匙なげ状態。
蘭が物問いたげな顔を向けてきます。
仕方なく行は説明するのでした。
「一昨日のナマハゲ軍団、憶えてる?」
こくんとする蘭。
「たぶん、そのうちの一人、このお方の恋人が、犠牲になったのでしょう」
「それはお気の毒だけど、そうじゃなくて……」
「……あのときナマハゲが言ってたとおり、事情は分からないけど、ぼくらは、危険な何者かに、実際に、追われているようなんだ」
「あ、う……」
困惑顔の蘭。そりゃそうでしょうが、行だって困ります。
結局、ただ肩を落とす二人だったのでした。
二人にとっては、ちょっと理不尽な話ではあるのですが、任務のために散った恋人の思いを引き継いだ仲居さんの熱烈さには敵いません。
着替えも早々に、それこそ追われるように外に追い立てられてしまったのです。
二人の目の前で、ぴしゃりと閉じられる玄関です。追い討ちをかけるように硬い、施錠の音まで聞こえます――
まさに、天国から地獄。
「ああ……」
深々とした、ため息一つ。
ここの皆さんの意識構造は、かように不思議だったのでした……。
どうしようもありません。諦めて、コン吉、ケンケンを揺り起こし――
とぼとぼと矢立峠を越えたのは、午前零時前。
コン吉の眼に照らされる青看板には、
『先へ進む者、全ての希望を捨てよ。本州最奥の地、アモリィ県』
冗談じゃない。行はそうこぼしたのです。




