10 七日目。秋田・青森(14)
「素晴らしい。あっという間でしたね」
「エヘ?」
ですが、ここで“小瓶”がそろそろ本気を、発揮し始めたり、しなかったりはしなかったりするのです。
行は、なんともほろほろな顔になって、自分も張り合ってしゃべりたくなったのでしょう、反論を開始したのでした。
「ちなみに、この凹曲面世界で、どのように若狭湾を渡ったと考えますか?」
蘭は気軽に即答したのでした。
「船をチャーターしたのよ!」
一つ頷くと、行は棋士が決め手を打つように言葉を放ったのでした。
「一月ですよ?」
「え?」
「忘れちゃだめです。文太郎さんが浜坂を出発したのは、元日なんです。そこから若狭湾はすぐです。文太郎さんが、無駄に日数をかけるわけがないでしょう」
「はい……?」
「真冬の日本海です。大荒れに荒れていたはずです」
「ああ! そうね、そんなイメージ……そうだとしても、それが、なに、てカンジなんだけど?」
「さっきは、『一度も日常に戻ることなし』て言葉を、『現世に戻ることなし』としましたが、別の解釈で、『現世の“非日常世界”には、その身をおいたこともある』とすることも、わずかなパーセントですが、できるということです」
「今さらズッコイというものです、ぶっすうぅぅぅ!」
「解釈の可能性がわずかでもあるんなら、今はぼくらは、逆に感謝の気持ちで検討すべきなんですよ……」
「……それで?」不承ぶしょう頷く蘭です。
「文太郎さんは若狭湾に至った時点で、一度現世にワープアウトされたんです。あとは、仰るとおり船をチャーターして、若狭湾全体を一直線に横切った。そして、湾の東の小浜市から再度ワープインしたのです。これなら、ゾーンアウトしなくても矛盾は生じません。
(全体図)
(左部分)
(中央部分)
(右部分)
もちろん、間あいだに立ち塞がる小半島は徒歩にて、小ワープを繰り返しながらクリアしたのでしょう。もとより、空は吹雪き、波は荒れ狂い、これはこれで珍しい旅と言えるのではないでしょうか? 言葉の意味で、非日常的だと思われたのかも知れません」
「……まことに遺憾ながら、無視できない妙な説得力があることを認めます。
では、可能性の多寡はおいといて、二つのケースが考えられるということですね。
(1)若狭湾を凹曲面世界で渡航した。
(2)若狭湾を現世にて渡航した。
――これでいいかしら?」
「残念ながら……」
行は首を振るのでした。
「……まだ、考えられるのです。
(3)若狭湾を異世界にて回避した。
です」
「時どき付いて行けなくなるよ!」
蘭が頬を膨らませたのでした。




