10 七日目。秋田・青森(7)
「ここ森吉山はちょうど北緯40度です。対して、約528km先の茅ヶ崎は、北緯約35度です。よって約5度の傾きがあると簡便に知れて便利なんですが、経度が違いますし、なにより折角ここまで実走して来たのです。その距離を基にして、より正確に話したいと思います。
森吉山の標高は無視して、地球を半径6371kmの球体とします。
さすれば、ここから見て、接線を基準に“わずか”2.4度迫り上がった所。
2.4度を高度で言えば、弦で、sinで、ええと――大ざっぱに21.9km。ここから、そのくらい“上”に、茅ヶ崎があります」
「凄い“標高”ですね。たしか太陽系最大の火山、火星のオリンポス山がそれくらいだったと――(グエる)――オリンポス山は標高約27km、裾野の直径は550km以上とされているようです。ですから、実は湘南海岸からここまでって、それに迫る規模だったということですね」
「おお、太陽系最大級の冒険だったのですね。文太郎さんが泣いて喜ぶレベルだね」
「さっそく文太郎スケール!」
二人してちょっと笑ったのでした。
「この世界では逆に、遠くの方が良く見える」
言葉を続けます。
「中間の山が邪魔したりして、細かい所が分かりませんが、大まかに、あの富士山(直径20km)の“すぐ東側”、3本分横、太平洋に当たった所が、茅ヶ崎です」
「思えば遠くに来たもんだ!」
「本当ですよね……」
と、今度はしみじみとするのでした。
「さぁ――」
本題に入ります。
「――なんでこんな話をしたのかというと、二人の“まっすぐライン”を考察したいからです」
北を指さします。
「北緯45.5度、ラインにしてここから約628km先の、宗谷岬です」
北からの風がびゅっと吹いたのでした。
「同様に計算して、約2.8度、高度で約30.9km、ここから“迫り上がった”所にあります」
「凄い……!」
「一本は茅ヶ崎から、もう一本は鎌倉からスタートして、二本のラインは、あの宗谷岬で初めて結ばれる予定でした」
「ロマンチックです……」
「それなのに、不思議なことに、それ以前にぼくらは出会ってしまいましたけどね(笑)」
「ミラクルと言うのでしょう……」
「現実的には、マージンのおかげですけどね。幸も不幸も――人生には、“幅”が必要だということです」
「無粋!」
「ではここでクエスチョン!」
「強引!(笑)」
「ランの“まっすぐライン”から見て、ぼくの“まっすぐライン”は、どちら側にあると言えるでしょうか? さぁお答えください。チッ、チッ、チッ……」
「単純明快、左側です」笑いながら気さくに答える蘭。
「ブーーーッ。ハズレです。あーあ、さりげなくヒントも出してたのに」
「え、違うの?」
「今の回答は、地図を基にしたのですね。北が上の――」
「あっ、そゆことね。わざわざ北を向いてから質問するなんて、芸が細かいわ(笑)。ごめん、“西側”に訂正する。コオのラインは、わたしのラインの西側にあるの」
行はしてやったりと、ほほ笑んだのでした。
「正解ですが、ぼくの期待した答ではありませんでした」




