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10 七日目。秋田・青森(5)

「今にも海がこぼれ落ちてきて、ここら辺一帯、水の底になっちゃいそう……」

 蘭の感慨に行は応えました。

「その海を、蘭海(らんかい)と名づけましょうか。(笑)

 確か、割球(かっきゅう)、球の任意の高さでの体積を求める公式があったはずです。それで逆算したら……。

 ええと、地球を半径6371kmの球体とします。(グエン『地球の直径』で真っ先に出てくる数字。参考値。以下同)

 そして地球の全部の水の総量を、13億8900万立方kmとします。

 さすれば、蘭海の海面の直径は、3639km。これは日本全域をカバーする大きさです。

 そして水深は、約265kmとなります」

「アハハ、想像もできないわ。わたしらの傍らを、大王イカやらリュウグウノツカイやらが泳いだりしてるのかしらね」

「ファンタジーの世界か、はたまた聖書の世界か。いずれにしろ、(せわ)しい世界に違いありません」

「地球が自転してるから!」

「はい。あと、それくらいの深さ(高さ)だと、浜辺から舟で沖に漕ぎ出すだけで、宇宙船になれますよ」

「あの宇宙戦艦の浮遊原理が、やっとわかったわ!」

 二人して明るく笑ったのでした。


「せっかくなんで、もう少し、大きさを比べてみましょうか。

 太陽とお月さん、見た目の大きさはほぼ同じですので、ここでは目視しやすい――今は隠れて見えないけど――お月さんをスケールにします」

 パムホで数値を確認しつつ話を始めます。

「月の直径を3474.3km、月までの距離を384400kmとしますと、その角直径(見かけの角度)は0.5度ほどです」

「わあ、それはまた、なんとも、()ーさいわねぇ? 満月って、もっとでかいものだと思ってた」

「そうですよね。で、あの――」

 上空を見上げます。

「ここから見るブラジル国ですが、その南北距離を仮に4400kmとしますと、その数字だけで計算しますが、約19.5度になります。これは月の約39倍、てことですね」

「その数だけお月さんが縦に並ぶって、イメージね」

「そうそう。これが南米大陸の、南北約7500kmともなれば、その数字だけで計算して、月の約63倍です。

 今度はブラジルから日本を見上げたとします。日本の南北を仮に3000kmとすると、月の26倍くらいになります」

「あら、わが国もなかなか」

「別の言い方をすれば、お月さんの見た目の直径は、約115kmくらいだ、ということですね。

 イメージしやすく、お月さんを日本に重ねますと、そうですね、群馬県か栃木県とほぼ重なります」

「お月さん。大きいんだか、遠いんだか、小さいんだか、近いんだか、わかんなくなるわね」

「ほんとですよねぇ……」


 興味を持った蘭がさらに訊いてきます。

「この地面を垂直に掘って行ったら、どうなるの?」

 行は答えました。

「それは、現世の地球と一緒だと思いますよ。地球の熱い、核にぶち当たる。仮にその熱と圧力を突破できたとして、約12742km先の、ブラジルの地表を下から掘り起こして、這い出ることになると思います」

 指を天頂に向けたのでした。

 蘭は視線を行に戻し、

「点であるはずの地球の中心が、ここでは、この地殻の外側に、“がばりー”と、膜のようになって広がって、全球を覆い尽くしているというわけだ」

「そうだと予想します。勘ですけどね」

「じゃ、薄い膜状になった中心点の外側は、どうなってんのかしら?」

「つまり、“向こう側”、ということかと……」

 お手上げのポーズ。もう行も、苦笑いだったのでした。

「ブラジルに直進するのに、宇宙の中心を通って行くのと、地球の中心を通って行くのと、どちらが早いか、考えさせられるわ」

 一度全天を見て、付け加える。

「とんでもない世界!」

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