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2 一日目。神奈川・東京(1)

挿絵(By みてみん)

(図はイメージ)


 コンクリの白い路面に、主な港までの方位と距離、参考マージンが、矢印記号と数字、日本語、英語で彫り刻まれています。そんな海岸のモニュメント、“トラベラーズゲート”を通過して、行はいよいよ街中にマシンを発進させたのでした。

 海を離れていきなりコン吉号を突入させた先は旧市民公園です。かつて野球場やテニス場があった更地ですが、“まっすぐライン”に厳密に沿おうと思ったら、そこを進まないとならないのです。左耳の、公道を勧めるナビ音声をまったく無視しています。早朝で人影がなかったからこそですが、これぞ早速の現場判断というものでしょう。道路を使わず更地内をショートカットするのはなんだか得意な気分、快感で、いま自分は本当に、“まっすぐ”の旅をしているのだな、と感動が身を包むのでした。自分に勲章を一つくれてやりたい気分です。

 無事に元公園を抜けて、新道(海岸バイパス)高架下の、市道に出ます。今度こそ真っ当な、白い小石が混ざったアスファルト道路です。出だしは完璧です。なんだか調子がよくて、顔がにやけてしまうのをどうすることもできません。ルートはこのまま道なりに北上です――って、うわ!?

“北上”ですって。(笑)

 ぼくの町を、それも何度も通った道を走ってるだけなのに、ずいぶん大仰です。芝居がかっていますね。北方向よろし! 進路よーそろ!(笑)

 体の中から吹き上がってくるものがあります。高まる興奮のなか、まずはJR茅ヶ崎駅を目指すのでした。


 言うなれば、まったく朝のキラキラとした新鮮な空気のせいなのでした。見るものすべてが新しく、輝いて目に映ったのでした。

 あちらこちら、家々の窓下にプランターが吊されていて、黄色、赤、青の花々が真っ盛りに咲き誇っている。家々の表札がオシャレなデザインしていることに気づく。マンホールが五(エン)玉のように見えて、コンクリ塀の上に焼き物の人形が楽しげに飾られていて、駅まで唯一の信号機が青で、幸先がいい、と嬉しくさせられたのでした。

 アスファルト面に『30 速度落とせ』と大きくプリントされてあり――

 松林に涼しげに囲まれた市立図書館前を通り過ぎ――

 なんでもないことが無性に可笑しく、楽しく。

 なんでこんなに幸せなんだろうと思って。

 辺りにだんだんと電柱が増え、その何十本もの電線で、空が縛られ始めたころ――

 ぽっかりと(ひら)けた空間、茅ヶ崎駅前(南口)に到着したのでした。

 ここまで順調です。満足して、階段口まで行ってみたのでした。

 そこで初めて、やって来た方向に顔を向けます。

「むふう――!」

 スタートしてここまで、ついに、小さいけれど、大きな一歩を踏み出したんだ、と感動したのでした。


 駅前広場中央には、モニュメントとして、音楽を奏でる少年少女の群像があります。いつしか何も感じなくなっていたのですが、改めて、なんで裸像なんだろうと思ったのでした。

 (もっと)も、何か着せるとなると、どんなデザインの服が適当なのかという問題が生じます。そんな煩わしい夾雑物を取り除き、純粋に美のみを追求した結果であるところの表現なんだろうと解釈しているのですが、同時に。アートとは、難解かつ都合のいい物のようでもあると、考えさせられてもいたのでありました。


 顔を戻します。さぁ、どうする?

 茅ヶ崎駅は、東海道本線を幅広く跨いだ構造をしています。

 ここを向こう側(北側)へ渡るには、コン吉号を担いで階段を上り、そのままコンコースを速やかに移動、向こう側の階段を下りなければなりません。

 ここに到着する直前までは、そうするつもりでいたのです。が――

「最初の壁ですね……」と(うそぶ)いてみたものの――

 昨日は、“こんなとき”は臨機応変、現場判断だ、と息巻いていましたが――

 さすがに駅ともなると、早朝とはいえ人の目があります。

 地元です。中には、見知った方もいらっしゃるかもしれず、行は――

「ちょっと無理」

 と、心がくじけてしまったのでした。苦笑です。アハハ!

 素直に西側へ200mほど移動し、そこに設けられてある地下通路を利用して、東海道本線をくぐり抜けたのでした。

 コン吉号を押し歩き、駅北口から再出発です。


 一里塚交差点で、まっすぐ高田(たかた)方面へ行くために、国道1号を横切りました。

 この交差点を右へ、そのまま国道に乗って行けば、東京です。交差点上の青看板(案内標識)にはその通り、『東京59km 横浜27km 藤沢8km』とあったのでした。

 自分が旅人だからでしょうか。あるいは相手が格が違う“1号”だからでしょうか。今は新鮮な気持ちで、国道の偉大さに感銘を受けます。

 なんたって、国道があれば日本のどこまでも安心に行けるのです。

 そして青看板があれば、どこにでも確実に行けるのです。

 困ったら大きな道、すなわち国道! そんな信頼を抱かされるほど、国道には、頼もしさを覚えたのでした。


 でも青看板は、もうちょっとくだけてもいいカモ、と思ったのでした。(笑)


挿絵(By みてみん)

(図はイメージ。撮影:2014年4月。曇り)

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