10 七日目。秋田・青森(2)
旅の七日目。7月27日、土曜日。午前8時前。
ヘルスセンター玄関前にコン吉、ケンケンを並ばせます。
出発前に、行は宣言したのでした。
「旅のけじめをつけるため、ともかく、青森港を目指します」
「はい」
(図はイメージ。青線が本日の予定走行ライン)
「残り、ラインにして約103km。一日で行って行けない距離ではありませんが、これから山越えもあり、状況によってはどこかで一泊します」
「はい。ゴールは昼間のほうがいいですものね」
行は頷いて賛意を伝えます。
「それから、ルートは、ぼくの“まっすぐルート”に従ってください。理由は後で説明します。ですから、今回は十和田湖は見送りです」
「ラジャ」
「では――」コン吉に乗りあがる行。
「イエス――!」そして蘭。
「――魔王・森吉山、討伐の旅の始まりです。行きましょう、お姫様!」
「ワクワクします、王子様!」
こうして、キツネたちを速歩スタートさせたのでした。
森吉山、未舗装の林道です。辺りの風景こそ、ブナ、オオシラビソ、ダケカンバなどの色鮮やかな美林、絶景つづきだったのですが、さすがに道行きは半端なく、急坂、石の浮く難路の連続。最初のうちこそ登れていましたが、とうとうキツネたちのパワーが及ばぬ坂道となり、下乗。二人とも息を切らしての徒歩となったのでした。
出発から約三時間、峠です。
ここからはしめたもので、“化けギツネ”たちの本領を発揮できます。
ですが、行は提案したのでした。
「ここまで来たのです。登頂してみませんか?」
「賛成です。それでこそ魔王退治でしょうから」
というわけで、林道を外れて、本来の登山道に入り、山頂を目指したのですが――
来て良かった! とすぐに嬉しく思ったのでした。
山肌をどこまでもなだらかに覆う、一面の緑の野原、風に波打つ草の大海原でした。オレンジ色したニッコウキスゲの群生がたおやかに揺れ、イワキンバイ、ツマトリソウ、その他多数の可憐な花々が、風の息づかいに震え、空気にその色をにじませています。
ああ、この緑の匂い――!
日の光はまるで乾いたように肌に軽く――
風涼やかに――これこそ人生の、夏の一ページなのさと言わんばかりの光景が、二人を出迎えてくれたのでした。
そして15分。
ラインにして約528km。
目出度く、森吉山の頂上を足下にしたのです。その標高、1454m――!
「うわあ……!」
風は薫り雲は輝く。青空は羽ばたき、周囲360度以上の絶景に、二人そろって感嘆の声を繰り返したのでした。
北は白神山地、岩木山――
東は八幡平、岩手山、秋田駒ケ岳――
南は鳥海山――
西は日本海、男鹿半島――
大快晴というものです。視界は澄み渡り、何もかも、くっきりと一望のもとだったのでした。




