9 六日目。秋田(9)
折角の温泉でしたが入ることもせず。
着衣の上から寝間着のガウンを着て。
消灯。
就寝したのでした。
夜半。水飲みに出て行った蘭が何事もなく部屋に戻ってきて、こちらが密かにホッと息するなか、寝ぼけたのでしょうか、ぼくのベッドの中に潜り込み、しがみつき、やがてスウスウと寝息を立て始めたのでした。
こんな状況で、なによりもです。ぼくは、真っ先に、チャンスだと捉えたのでした。
不謹慎です。自分の計算高さに嫌になります。でも――
翌朝、わざとでも大慌てしてみせ、蘭に元気を出してもらえれば、どんなにいいことでしょう。
ビンタの十発二十発でも、喜んで食らってやる――
そんな心だったのです。
「……」
目が冴えています。
自分に縋り付いて穏やかに寝息を立てる蘭でした。
そして――
アイデアは、どんなに呻吟しても出ないときは一カケラも出ず、生まれるときは無意識に、するすると出てくるものです。
このとき、その奇跡のひらめきが訪れたのでした。
自分は今、ピンチです。どこに出しても恥ずかしくない、正々堂々たる正真正銘のピンチです。だったら――
自分も、誰かに縋っても――いいんじゃないでしょうか――?
行はこの着想に興奮して、それから朝まで思索に没入したのでありました。




