9 六日目。秋田(8)
打当温泉ヘルスセンター着。
(図はイメージ)
午後1時前。
“まっすぐライン”にして、約522km地点です。
本日は結局、ラインを昨日からただの20kmほど伸ばしただけて、早々に活動を終えたのでした。
アウトになってしまったというショックは二人に等しく振りかかったわけですが――やはり。その直接的な原因となった蘭の方がダメージが大きく、まともに動けないありさま。
となると、残りの方の行が、何としてでも意識を保って踏ん張るしかなく、駅からここまでの移動は、それはそれは大変な苦労の結果だったのでありました。
到着して、取った部屋は一つです。目を放している間に蘭が、(自殺)――しやしないかと、行はそれだけが心配だったのです。
さらに、別の問題もあります。今後のことをどうするか、です。やがて所持金も尽きるでしょうし、これは極めて真面目な現実なのでした。
ところが。
ときおり、話を振ってみるも、
「そう……」
と繰り返すのみです。当たり障りのない軽い話題でも、「そう……」と、完全に投げ出してしまっていて、まったく手の付けようもなかったのでした。
頭を抱えて自分も閉じこもりたい。それが正直な心でした。
夕食時のことです。
施設の食堂で取らねばならないのですが、蘭は、とうとう、動く気力も放り出してしまったようで、ベッドに、崩れ解けるように、横倒れになったままです。
行も、こうなればとことん付き合うしかなく、せめて夜食用におにぎりでも確保できないだろうかと、そんなことまで細かく気を遣うのでした。
考えなきゃならないことが多すぎて、参ってしまいそうです。
そんなときです。部屋のドアが、遠慮がちにノックされたのでした。
開けると、サボテンの形した、透明ピンクの小母さんです。エプロンをしている所を見ると、食堂の給仕係の人のようで、事実、たくさんの手(腕?)に、食事の盆を携えていたのでした。
「※」
押しつけてきます。
思いがけないサービスに礼を言い、有り難く受け取ると、小母さんはこう、囁いたのでした。
「※※(明日)(早々)(逃げなさい)」
「――」
思わず左右を見回す行です。
「――どういうことですか?」
雰囲気に飲まれて、声が自然と低くなります。
「※(全滅した)」
「……」
その小母さんの話を要約すると、こうでした。
南から、御子たち(ぼくたちのことです)を付け狙う少数部隊が来襲した。
精鋭ナマハゲ軍団百人が迎え撃ったが、相打ちになり、ほとんど全滅した。
その際、相手方のおよそ一名が、逃げ延びた。
この一名が、諦めずに御子を追いかけて来ているもよう――
とのことでした。
はっきり言って、何が何だか、さっぱり分かりません。
当然ですが、この際です、あれこれと質問しまくったのですが……。
「※(不明)」
これを繰り返すのみ。やがて、留めるすべもなく、小母さんに立ち去られてしまったのです。
行は、もう、頭を掻きむしりたい気分だったのでした。




