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8 五日目。山形・秋田(8)

 ぱたん――


「へ?」


 宇宙列車の扉が開かれると、そこからバラバラと、数にして数十という“人影”が、振りまいたように落ちて来たのです。

 驚いたのもつかの間、途中で落下傘がポンポンと開き、同時に、吠えたような音も聞こえてきたのでした。


 うおおおおぅ……。うおおおおぅ……。


 行、毛が逆立ちました。このときの感覚ったら、とても言葉にできるものではなかったのです。筆舌に尽くしがたいナントカ、というやつです。

 悪い勘は当たるもので、やがて二人の前に勢揃いした一団を見て、行はもう、ガックリと膝をつきかねない絶望感に襲われたのでした。


 ナマハゲでした。


 鉈やら包丁、桶、松明(たいまつ)を手にした赤鬼の一団が、

「※(うおー、うおー)」

「※(わりィごはいねがーっ)」

「※(なぐごはいねがーっ)」

「※(うおー)」

 好き勝手に吠えまくっているのです。

 頭を抱えるしかありません。瞬間、カッ、と顔を上げ、

「お前ら――!」

 ついに怒鳴っていたのでした。心底(いか)っていたのです。

「――人様の作品を汚すでねぇだぁ!」

「押さえて押さえて」蘭がはらはらしています。

「岩手県と宮沢賢治にあやまれ!」

 その言葉に赤肌の鬼の一団が(かしこ)まったのでありました。

 (おさ)らしき男が、

「※※(仰るとおり、一言の弁解もなし)」

「だいたい節操もないですっ!? もともときみらのフィールドは、小正月限定の男鹿(おが)半島でしょうが? 時、所構わずのさばったきみらのおかげで、他の地区出身の秋田県人が、東京や大阪で話題振られて、困窮させられてる事実を知っとんのか!?」

「まあ、まあ――」

「※※(致し方なし。ご理解を賜りたく)」

「がるるるるる!」

 もはや人語を発することができなくなった行に代わって、ほほ笑みを浮かべた蘭が対応するのでした。

「それで、どんなご用件かしら?」

 打って変わって、我先にと、しゃべりだす鬼どもでした。がるるるるる!

「※※(一言、ご注進いたしたく罷り越しました)」

「※(ご用心めされい!)」

「※※(我ら一同、これより戦場に赴きます)」

「※※(極力時間を稼ぎますればその間に)」

「※※(どうか速やかに、ご本懐を――)」

「※(御子どの!)」

「※(御子どの!)」

「※(ならば御子どの!)」

「※(いざ、()かん!)」

「※(さらば……!)」

「※(うおー、うおー)」

「※(うおおおう!)」

 ――


 口々に叫びながらナマハゲ軍団が動き出し、走り出し、あっという間に姿を消してしまったのです。

 後に残されたのは、藁の匂いに火の匂い。それと――

 なにがなんだか、わからんポイ、な――

 二人だけだったのでした。

 ――


 この数時間ののち。

 南の空が、ときおり、パッ、パパッ、と明るく輝くのが目撃されたのです。

 が……。

「花火大会でしょ」

 (ひな)びた旅館の壁の、ローカル色豊かなポスターやらカレンダー、時刻表やらに興味の目を向けていた行は、そう短く切り捨てて、相手にしなかったのでありました。

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