7 四日目。福島・山形(7)
『ピポッ』
「聞こえる?」
『感度良好であります! 上官どの!』
「マジでやめましょうよ。それやりだすと、毎度ネタを考え出すのしんどくなりますよ?」
『じゃ、コオの不戦敗ってことで希望を聞き入れてあげる。んで、なに?』
「ブラジルのことで思ったんだけど……」
『アハハハハッ!? こんどはコオから? ブラジル大人気ね!』
ちょっと考えて、行、
「この話題、大丈夫ですか? 気にしてんだけど」
爆笑の声が聞こえます。成功です。
『――ネタ押し無用だから! もうっ、笑っちゃったじゃない!』
「実はぼくには、身内びいきでなんですが、一人、自慢の兄がいるのです」
『へえ奇遇ね。わたしにも自慢の姉がいるわ! わぁ! 今度くっつけてみない?!!』
「その前にぼK(Uらでしょうが!)――えへん、ごほん、ゲホ、ごほごほ……」
『大丈夫?』
「失敬! で、この兄が、ぼくに引っかけ問題を出した、というのが言いたかったことなのです」
『面白そうね』
「現世にいる旅人として答えてください。ココから、一番遠い所はどこでしょう?」
『ココね』
「……あらゆる意味でがっくり来ています。ぼくは、“かの国”だと答えたんですよ」
『なるほど! それでブラジル』
「問題が引っかけでなかったら、地理的に、ブラジルは日本の反対側です」
『ふむふむ。どうぞ』
「天頂を指さすということは、“天の地平面”をがばりーと回って――」
がばりー? と復唱する声が聞こえましたが無視します。
「――最終的にブラジルを指し示していることに、なるのではないでしょうか?」
『却下です』
「即決ですか?」
『だって、あの小父さんは、“見えている”と言ったじゃん』
「そうでしたね」
『それに、つまり、どういう意味なのよ? わかってないままじゃん』
「そこで、第三説の再登場ですよ」
『挨拶説ね。“ブラジルとは、日本にとって奇想天外な何かを、そう言い慣わしたものである。ブラジルは、日本の対極だから、その名称として相応しい”』
「はい」
『では、ずばり、ブラジルとは何?』
「神さまです」
『ああ、引かないで引かないで(笑い)』
こっちが死ぬほど笑わされたのでした。
「――ぼくのセリフだろうが!」
『出たよ神さま! みんな気をつけるんだ!』
「ただの挨拶ですよ! 挨拶! グッモーニン、グッバイ、とかと同じ感覚の!」
『ああなるほど。それなら天を指さすしぐさも、合点がいきます。でも今朝方は、“見えない”と返してオーナーに喜ばれていたわ。でも小父さんは、逆に“見える”と返してきた』
「つまり、神さま側に問題がある」
『どうぞ』
「神は神でも、“タタリ神”、“荒ぶる神”では?』
『さらに、どうぞ』
「旅人が……言うなればぼくたち異邦人が、“見えない”という分には問題ない。むしろ適切な対応だと褒められる。でも、国民たる彼らは“見える”と言っとかないと、宗教上の禁忌に触れる」
『……なるほどねぇ。よく考えたわね。優しくない神さま、だからブラジル。
荒ぶる神・ブラジル。(笑い)
正しいかそうでないかは置いといて。
おかげで……なんだが心が軽くなった気分よ』
「ありがとう」
『わたしのセリフだよ――オーバー!』
(ぷつん……)




