7 四日目。福島・山形(6)
『ピポッ』
『ハロー?』
今度は蘭の方から掛かってきたのでした。
「感度良好です」
『ブラジルのことで思ったんだけどさぁ……』
「その話題、大丈夫ですか? 気に触るんじゃないかと心配なんだけど」
『大丈夫。恐怖を乗り越えて、人として成長してるんだと証明してみせたげる!』
「ならいいのですが」
『ねぇ』
「はい」
『この平面世界では、ブラジルって、どう見えるんだろ?』
うっ、と詰まってしまいます。
「“第一の説”に挑む気なんですね?」
『だって、それしか残ってないもの。きっとシャーロック・ホームズだって賛成してくれるわ――あっと、知ってる? ホームズ?』
「真面目だか、からかってんだか、判らないおちょくりですね。いくらぼくでもホームズの名前くらい知ってますよ」
『じゃあ、どう思う? 標高の高い、見晴らしのいい場所から眺めたら、ひょっとして見えるのかな……?』
「そうですね……。見えるとしたら、地平線の円周上に、南米大陸が、くにょーんって伸びて広がる感じ、ですかね?」
くにょーん? と、わざわざ通話で復唱する声が聞こえましたが無視します。
「でも平面世界ということは、地平線半径は無限距離なのかな? 存在は確かにしてるんだけど、無限のかなたに無限のスピードで永久的に遠ざかる物は、光がここまで届かないのかな……? つまり見えない?
うーん。
まずグエらせてください。たしか過去の大規模調査では、“見えない”という報告だったと記憶しています……」
行は断りを入れると素早くパムホを操作し、やがて頷いたのでした。
「――今のところ観測できているのは、国内だけのようです。『宇宙と宇宙の接触域ゆえ、その域から外れた遠方は、“縁”の陰に隠れて見えなくなる』との仮説です。宇宙を球と仮定したら、縁は、つまり地平線てことですね。
その他、『異世界の摂理が、そうルール付けしている』とも書かれてあります。こうなるとなんでもありですが……」
『なんにしろ、見えるとしたら、やっぱり地平線方向よねぇ……?』
「うーん、そうなっちゃいますよねぇ。天頂では、ない……」
『平面世界の地平線の向こう側、て、どうなってんのかしら?』
「地平線があるとしてですが、正反対の側の、地平線と連続している……ですかね?」
『西側に隠れたら、くにょーんと無限に拡散して、地平線をゼロ秒でグルッと流れて、東側に凝縮して、現れてくる、てこと?』
「はい……自信ないけど」
『OK! とりあえず保留てことで(笑)』
「同意します。現世に帰ったら、優しい専門家に聞いてみましょう」
『ウフフ、そうしましょう。オーバー』
(ぷつん……)




