5 二日目。栃木(4)
400年の歴史を誇る、世界最長の杉並木道、国道121号・例幣使街道でした。路肩のない狭い道路の両側にその巨木が立ち並び、路面に厚く緑の影を落とし、しんと佇み、風格漂うまったく見事な道だったのでした。当時の人と同じ道を走っている、と思うと、感激で胸に迫るものがあり、いつまでもこの遺産を美しく保ちたいと思うのでした。そして――
午前11時。
ラインにして約158km。
順調に日光市に到着です。当初の予定通り、ここで暫し観光を楽しみます。
国道119号を西へ。市の中央を通る、ゆるやかな坂道でした。左右の景気のいい町並みを見ながらゆっくり上り、119号の起点でもある神橋交差点に到達します。この大谷川から向こうが、杉の巨木が生えまくりの鬱蒼とした山域。国宝、世界遺産などで名高い、『二社一寺』区域だったのでした。
緑の香気ただよう中、コン吉と並んで歩き、行ける所まで行き、専用柵に首輪からのヒモを繋ぎます。コン吉に言い含めるだけで防犯対策になるのは便利なところですが、反面、この世界には自転車泥棒は存在しないようですから、世の中うまくいかないものです(?)。
別に懸念があり、実はこの位置で、マージンをそうとう食い潰しています。
残すところ2km弱で、パムホも黄色く注意表示を出しており、心の落ち着かぬ見物となるのは仕方ないことでした。
さぁ、それでもメジャー、日光東照宮です! 楽しみましょう。
見所と言えば、マジレスですが多すぎで答えられません。その中でも、ギミック物が好みな行としては外せないものが三つあり、それを紹介することにします。
まず――
(2枚ともイメージ。撮影:2014年5月。小雨)
神厩舎の『三猿』です。なんだ「見ざる・言わざる・聞かざる」の彫刻か、ありきたり、と言うなかれです。これ、というか、“ここのこれ”は、スゴイんです。人が見ているときは普通の三猿ですが、見物客の誰もが視線を外した瞬間に――
『見るで見るで――』
『聞くで聞くで――』
『言うたろ言うたろ――』
と騒ぎ出すのでした。構造は不明だよ(笑)。流石は(この世界の)国宝の彫刻だということで。
「アハハッ!」
周囲の観光客も囃し立て、笑顔で見守られる中、お約束の知能比べとなって楽しいのですが、いかんせん、作られたのが江戸時代。パムホで撮影されてるとは露ほども気づかない、三匹の猿くんたちなのでした。
同様のギミックが、名工と謳われた左甚五郎の『眠り猫』です。人が見ているときは眠り猫ですが、誰も見ていないとカッと目を見開くのです。
先ほどと違って、ここには静謐感が漂います。
「や……」
ただこれだけなのに、すごい気品を感じさせられたのでした。
圧巻だったのが、薬師堂(本地堂)の『鳴竜』です。袈裟だけ身につけた、文字通りピンクの枯れ木のような老僧が一人、竜の天井の下(竜の頭の下)で鋭く拍子木を打つと、その甲高い音が、鈴が転がるように反響し、天井板がバタバタとトランスフォームし、巨大な竜の像となって、参拝者に迫ってくるのでした。
これにはさすがの行も――
「むふぅううう!」
鼻息が荒いのです。(笑)
大満足のひとときだったのでありました。
そんな折り――
帰りかけた僧侶が、ふと足を止め、なぜか歩み寄り、行に話しかけたのです。
「※※(ブラジルは見えるかな……?)」
「え――?」
行のその表情を見て悟ったのでしょう、老僧は一つ静かに頷くと、くるりと背中を見せ、歩き去ったのでありました。
「……」
ただ呆然と、見送る行だったのです……。