4 一日目。栃木(3)
「で――」彼女の話は続きます。
「7月始めに花子さんと出会って、刺激されて。わたしもどこか遠い所まで、つまりは宗谷岬まで旅したいと思ったの。だけど親を説得するのに時間がかかったってわけ」
これには行、苦笑してしまったのでした。
「ご苦労様です……」
自分が男の子でよかったと思う一瞬です。
「最終的に、二つの条件付きで許してもらえたわ。一つは、スタート地点を、太平洋沿岸にすること。
だから鎌倉なの。
私としては、花子さんの後を継いで、港区スタートにしたかったんだけど、父様が許してくれなかった。距離を伸ばして、できるだけマージンを稼ぎたかったらしいわ」
「ありがたい親心です」ついで、顔を赤らめながら。
「――もう少し、西側に来てくれてもよかったのに」
蘭も幾分上気させてフフン、と応じます。
「“鎌倉”、の方がカッコいいじゃん」
「致し方なし」ヘタに逆らわない行でした。
「で、もう一つの条件が、“旅のテーマ”をキッチリ決めなさい、てこと」
「おお――!?」これはどこの親も同じなのでしょうか? 俄然、興味をかき立てられます。
「ランの旅のテーマは、なあに?」
蘭はちょっと驚いたような顔になりました。
「急に食いついて来たわね。――そうね、でもたいしたテーマじゃないから。期待させて悪いけど」
「なんだよ、そっちも急に勿体ぶって」
「そうじゃないけど――“湖”よ。湖」
蘭は打ち明けるように、それでも堂々と言ったのでした。
「湖! この旅で、できるだけ多くの“大きな水たまり”を見て回りたいな、と思ったの」
「ロマンチックのため?」
蘭は笑ってくれたのでした。
「――そうよ! ねぇねぇ、信じられないくらい大量の水が、地面の上に置かれてあるのよ!? まずそれが不思議。湖って、とてもロマンチックだわ! そう思わない? 花子さんとお話ししたとき約束したんだ。一番ステキな湖みつけるって……。
ところで……」
当然ながら、訊いてくるのでした。
「コオのテーマは、何なのかなぁ?」
「ぼくの場合は、半分以上、親を説得するためのものだったから……」と、予防線を張ります。
「出たよ、“勿体ぶるオバケ”」「アハハ……」
行は観念して話し始めるのでした。
「二つあります。一つは個人的なことで、既存の道路を使って、できるだけ直線的に旅することです。実は文太郎さんがこれの極限ルートをやり遂げていまして、それに影響されたのです」
蘭の“湖”と、同レベルのテーマだな、と思います。
「ストイック! せっかくの旅なのに、観光も満足にできないじゃない」
「そう。でもこれは個人的なことなので、ぶっちゃけ、何とでもなるよ。実際、今回、観光地ではあちこち見て回るつもりでしたし。
それよりも二つ目、親を説得するために持ち出したテーマ、てのが――」
「と、言うのが?」
「一言で言えば、“神さま”を見つける旅です――て、引かないで引かないで(笑)」
お約束のじゃれ合いをしたあと、文太郎さんの極限ルートの画像、そして改めて――
文太郎の不治の病のこと、客死の覚悟だったこと、洗いざらい話して、蘭と情報を共有することになったのでした。
蘭は遠慮なくコメントしたのでした。
「――でもやっぱり、お医者様の仕事だと思うわ」
「がんばります……」
さあ。これで、お互いの事情は分かりました。残ったのは――
最大の疑問点でした。




