3 一日目。東京・埼玉・群馬・栃木(9)
途中の青看板にはこうありました。
『おめでとう友よ! ここからはドチツリー県』
(図はイメージ)
心から安堵の息をつくのですが、前方を見て気を引き締めました。
大勢の、珍しくも制服を着用した、重火器で武装までした男たちが、待機していたのです。
先ほどの少女が、コン吉から下ろされ、彼らに保護(確保)されています。
一人だけ制帽を頭に載せた、ピンクのねじれ棒のような外観の男、この集団の隊長らしき男がこちらに手を上げて、「こっち来い」とひらひらさせました。これは、指示に従うしかないでしょう。
いつの間に見つかっていたのでしょうか、空の宇宙戦艦も地のグンマーも、究極兵器の操作を中断して、こちらの成り行きを注視しています――
そんな静けさの中、行は男のもと、少女のそばへと、ケンケンを促すのでした。
「※(私たちは県境警備隊だ)」
と、ケンケンから降りた行に、隊長は自己紹介したのです。
「※※(よくもまぁ、この紛争地帯を通ろうと思ったものだ)」呆れたように肩(?)をすくめます。
「知らなかったのです」「※(ふむ)?」
こちらを見つめる目が真剣です。行は急に心細くなったのでした。
「ぼくらはこれからどうされるのでしょうか」
「※(なにか懸念でも?)」
「どこかに連行されるとして、その場所によっては困ることになるのです」
するとその男は考え込み、瞬間、急に目を丸くして急くように問いかけてきたのでした。
「※※※(君は、君らは、ひょっとして、噂に聞く“旅人”という者なのか!?)」
「!」
行の方もびっくりです。これは重大事態でした。この世界の人たちは、ぼくたちのことを――旅人と、ひょっとして“まっすぐゾーン”のことを――なぜか、承知していたのです。
ありえないはずでした。
ここは、この世界は、無限個ある宇宙のうちの一つにすぎません。発生してからまだ歴史が浅い(30年)異世界現象を鑑みるに、すでに別の誰かがここに訪れていた確率は、ゼロとは断言できませんが、それでもゼロのはずでした。
「むむ……」
考えられることは、現世地球とは別の地球からの来訪者があったとする可能性です。現世地球にあることならば、“他の現世地球”にもあってもかまわないはずで、しかも、そんな地球の個数に制限はかかっていないでしょう。
ということは――
ひょっとして、現世地球にも、いつの日か、異邦人が訪れてくるのかもしれません。
考え込んでしまった行に、男は焦れたように答を促してきます。
「あ、すみませんでした――そうです」ここは正直に言うしかないように思えます。
「ぼくらは、旅人です」
静かなここの住民たちの間に、静かな動揺が広がったのでした。
男が、再度問うてきます。
「(君たちの保護者は誰か?)」
これは、通常だったら――親でしょう。
ですが行は、ここで少女と顔を見合わせたのでした。直感が働いたのです。親でなく、別の誰かに。この場に相応しいと確信される、誰かにです――
行はパムホを拡張しました。
見ると、彼女もまた、パムホを拡張させています。
行は顔を戻すと、もう、成り行きに任すことにしたのです。
“その画像”を、そして少女もまた誰かの画像を、男に向かい合わせになるように差し出して見せたのでした。それを認識した隊長の口から悲鳴が上がりかけ――そのときでした。
南からの来訪者を迎えたのです。
数名のお付きの者を従えた、グンマーの族長でした。